

癜風は、脂質要求性酵母様真菌であるMalassezia属の過剰増殖によって生じる表在性真菌症である。マラセチアは足底を除く健常皮膚の常在真菌叢を構成しており、感染源との接触よりも、宿主皮膚環境の変化に伴う増殖が発症に関与する。日本皮膚科学会・日本医真菌学会合同の皮膚真菌症診療ガイドラインでは、癜風は胸部、背部、肩周囲を中心に淡褐色斑、紅褐色斑、白斑が多発し、融合傾向を示す疾患として記載されている。若年から中年に多く、国内のマラセチア感染症は男性に多い傾向があり、10代から40代に患者数が多い。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf)
病変は自覚症状に乏しいことが多い一方、微細な鱗屑、軽度のそう痒、色調変化が患者の受診契機になる。高温多湿、発汗、皮脂分泌亢進、油性外用剤の使用、免疫状態の変化などは、マラセチアの増殖に関与し得る。したがって治療では、単に病変部へ薬剤を投与するだけでなく、発汗後の洗浄、皮膚の蒸れへの対応、再発しやすい季節におけるセルフケアの指導まで含めて管理する必要がある。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/2013/08/19e2ae577a696f81acf51fdcc0173e2c.pdf)
薬物治療の目的は、角層に存在するマラセチアを減少させ、鱗屑を消失させ、活動性病変を抑えることである。ただし、マラセチアは常在真菌であるため、治療によって皮膚から完全に排除することを目標にする疾患ではない。治療後も再増殖し得ること、臨床的な色むらの改善には時間差があることを、治療開始時から説明しておくことがアドヒアランスと満足度の両面で重要である。
皮膚真菌症診療ガイドライン 2025
典型例では、躯幹上部、肩、頸部などに生じる境界比較的明瞭な色素異常性斑と微細な鱗屑から臨床診断が可能である。しかし、白斑型では尋常性白斑、炎症後色素脱失、癜風様の色素異常を呈する他疾患との鑑別を要し、褐色調病変では脂漏性皮膚炎、紅色陰癬、体部白癬、ばら色粃糠疹、接触皮膚炎などとの鑑別が問題となる。特に抗炎症外用薬への反応不良例や再発を反復する「癜風疑い」症例では、経験的治療を繰り返す前に真菌学的確認を行う価値が高い。
癜風の診断には病変部鱗屑を用いたKOH直接鏡検が有用である。太く短い菌糸と球状胞子の集塊を確認することが基本であり、いわゆる「spaghetti and meatballs appearance」に相当する所見が診断の支えとなる。日本のガイドラインでは、ズームブルーや酸性メチレンブルーなどを使用すると菌糸と胞子の観察が容易になるとされている。病変辺縁や鱗屑が得られやすい部位から採取し、色素異常だけが残った陳旧病変を検体としないことが重要である。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf)
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 臨床所見 | 胸背部、肩、頸部に多発する褐色斑・紅褐色斑・白斑と微細な鱗屑 | 鱗屑は擦過や皮膚の伸展で目立つことがある |
| KOH直接鏡検 | 太く短い菌糸と球状胞子の集塊を確認する | 鱗屑が明瞭な活動性病変から検体を採取する |
| Wood灯検査 | 黄色系の蛍光を示すことがある | 蛍光を示さない症例もあり、陰性で否定はできない |
| 鑑別診断 | 尋常性白斑、炎症後色素異常、体部白癬、脂漏性皮膚炎、紅色陰癬など | 非典型例では鏡検を優先して診断精度を上げる |
Wood灯は補助的検査として利用でき、癜風で黄色系の蛍光を観察することがある。ただし蛍光は常に認められるわけではなく、陰性所見のみで癜風を除外しない。診断の中心は、臨床像と病変からの直接鏡検所見を統合して判断することである。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf)
癜風の薬物治療では、抗真菌薬外用が第一選択である。皮膚真菌症診療ガイドライン2025では、「癜風に抗真菌薬による外用療法は有用か」というClinical Questionに対し、推奨度A、すなわち「行うよう強く勧める」としている。局在例から中等度の広がりをもつ例では、外用薬の適切な塗布が安全性、薬物相互作用の少なさ、コストの観点から合理的である。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf)
実臨床では、アゾール系外用抗真菌薬を中心に、病変の広さ、部位、患者の使用感、皮膚刺激性、処方可能な剤形を考慮して選択する。クリーム、液剤、ローション、スプレー、シャンプーなどの剤形があり、限局病変ではクリームや液剤が使用しやすい。胸背部など広範囲に及ぶ場合、患者が手の届く範囲、塗布のしやすさ、家族による介助の可否を確認し、洗浄剤・シャンプー型製剤を含めて実行可能な方法を検討する。
海外のレビューでも、癜風の多くは外用抗真菌薬に反応し、全身投与と比べて有害事象と薬物相互作用が少なく、低コストであることから治療選択の中心とされている。外用療法の期間は薬剤、剤形、病変範囲、添付文書上の用法に従うべきであり、特定の成分名や一律の投与日数だけを根拠なく一般化してはならない。医療従事者は、処方薬の最新添付文書、保険適用、院内採用状況を確認したうえで指導する。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/2013/08/19e2ae577a696f81acf51fdcc0173e2c.pdf)
国内ではミコナゾール配合シャンプーが医薬部外品として入手できるが、ガイドラインはフケ症におけるマラセチアへの抗真菌活性を踏まえ、癜風の予防や治療への効果が期待される旨を記載している。一方で、医療機関で診断された癜風の治療としては、病変の広がりや診断確度を評価したうえで、医療用抗真菌薬を含む標準的治療を選択する姿勢が望ましい。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf)
抗真菌薬の内服は、全例に必要ではない。ガイドラインでは、病変が広範囲な症例や再発を繰り返す症例で内服療法を選択するとしており、癜風に対する内服抗真菌薬も推奨度Aとされている。ただし、この推奨は外用療法に代わって安易に内服を開始することを意味しない。内服薬は、外用の実施困難性、病変面積、既治療歴、再発頻度、患者の希望、併用薬、肝疾患の有無などを統合し、利益とリスクを比較して選択する。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf)
内服治療で主に検討されるのはアゾール系抗真菌薬である。海外レビューでは、イトラコナゾールおよびフルコナゾールが全身治療の選択肢として示されている一方、経口抗真菌薬には肝機能障害を含む有害事象や薬物相互作用の可能性があり、第一選択ではないと整理されている。特にイトラコナゾールはCYPを介した相互作用が問題となり得るため、循環器用薬、脂質異常症治療薬、向精神薬、免疫抑制薬などを含め、処方前に併用薬を確認する。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/2013/08/19e2ae577a696f81acf51fdcc0173e2c.pdf)
処方時には、妊娠・妊娠可能性、授乳、肝疾患、心不全の既往、腎機能、服薬内容を確認する。さらに、治療目的が「菌学的・臨床的活動性の抑制」であること、色素異常の消退はすぐには得られないことを説明し、見た目の変化だけを理由とした短期間での再投与や不要な投薬延長を避ける。経口ケトコナゾールは肝毒性、内分泌系への影響、相互作用の懸念から、海外レビューでは癜風に処方すべきでないとされる。経口テルビナフィンも汗への移行が十分でなく、癜風には有効ではないとされており、白癬の薬剤選択をそのまま癜風へ当てはめないことが重要である。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/2013/08/19e2ae577a696f81acf51fdcc0173e2c.pdf)
なお、国内の保険適用、薬剤ごとの用法・用量、禁忌、併用禁忌・併用注意は、疾患名だけで判断せず、必ず当該薬剤の最新添付文書と施設の処方運用を確認する。ガイドラインは医学的根拠を提示するものであり、保険診療上の手引きそのものではないと明記している。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf)
癜風診療では、病変の色が正常化しないことを「薬が効いていない」と患者が受け止めやすい。実際には、抗真菌治療でマラセチアの活動性が低下し鱗屑が消失した後も、低色素斑や色素沈着が数週間から数か月持続することがある。治療判定では色調だけでなく、鱗屑の消失、病変の進展停止、必要に応じた直接鏡検での菌要素の評価を組み合わせる。鱗屑の消退は活動性真菌感染の改善を示す実用的な指標となる。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/2013/08/19e2ae577a696f81acf51fdcc0173e2c.pdf)
再発率が高い背景には、原因菌であるマラセチアが皮膚常在真菌であることがある。皮膚真菌症診療ガイドライン2025では、室温・湿度の調整、発汗後のシャワー浴などのスキンケアが予防に重要とされる。高温多湿の季節、発汗を伴う運動・労働、密閉性の高い衣服や装具の使用状況を把握し、患者個人で実行可能な予防策に落とし込むことが望ましい。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf)
頻回再発例に対する間欠的な予防的外用や内服については、海外では一定の選択肢として議論されている。しかし、予防投与に関する研究は十分ではなく、日本のガイドラインでも確立された投与法はないとされる。そのため、再発のたびに診断が妥当か、他疾患を見逃していないか、外用の実施量・実施範囲が不十分ではないか、蒸れや発汗などの誘因が残っていないかを再評価することが先決である。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf)
診療での説明例としては、「菌の増殖を抑える薬で、粉をふく状態は先に改善します。一方、皮膚の色むらは菌が減った後も時間をかけて戻ることがあります。薬が効いていないと自己判断せず、鱗屑や新しい斑点が続く場合に受診してください」と伝えるとよい。これにより、色調残存による過剰治療と、再燃を見逃した治療中断の双方を減らしやすくなる。