急性鼻炎とは?診療で押さえる原因・鑑別・対応

急性鼻炎とは?診療で押さえる原因・鑑別・対応

急性鼻炎は主にウイルス感染に伴って急に発症する鼻粘膜の炎症で、鼻漏・鼻閉・くしゃみを来します。アレルギー性鼻炎や急性鼻副鼻腔炎との違い、問診・診察、対症療法と受診判断をどのように整理すればよいでしょうか?

急性鼻炎とはの基礎知識と核心ガイド

急性鼻炎を診療で整理する要点
多くは感冒に伴うウイルス性炎症

急性鼻炎は鼻粘膜の急性炎症であり、鼻漏、鼻閉、くしゃみを中心に咽頭症状や咳嗽を伴うことがあります。

抗菌薬が必要とは限らない

ウイルス性が主体であるため、一般には経過観察と症状緩和を基本とし、細菌感染を示唆する経過を見極めます。

顔面痛や遷延は副鼻腔炎を疑う

症状が長引く、いったん軽快して再増悪する、高熱や強い顔面痛がある場合には急性鼻副鼻腔炎を評価します。


急性鼻炎とは何か:病態と位置づけ

急性鼻炎とは、鼻腔粘膜に急性の炎症が起こり、鼻漏、鼻閉、くしゃみなどを生じる病態です。日常診療では「鼻かぜ」と表現されることも多く、急性上気道感染症、すなわち感冒の一部として遭遇します。厚生労働省は急性呼吸器感染症を、鼻炎・副鼻腔炎・咽頭炎・喉頭炎などの急性上気道炎と、気管支炎・肺炎などの下気道炎を含む病原体による症候群と位置づけています。急性鼻炎はこのうち、鼻腔を主座とする上気道の炎症として理解すると整理しやすい疾患概念です。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ari.html)
典型的にはライノウイルス、季節性コロナウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルスなどのウイルス感染を契機とします。ウイルスの種類、患者の年齢、免疫状態、既往、流行状況によって、発熱、咽頭痛、咳嗽、倦怠感、嗅覚低下などを伴う程度は異なります。鼻粘膜では血管拡張と透過性亢進、粘膜浮腫、分泌亢進が進み、水様性鼻漏、くしゃみ、鼻閉が生じます。急性鼻炎では咳嗽、微熱、掻痒感、鼻漏、鼻閉、くしゃみがみられ得るとされ、感冒を背景に発症することが一般的です。
msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/16-%E8%80%B3%E9%BC%BB%E5%92%BD%E5%96%89%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%BC%BB%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E5%89%AF%E9%BC%BB%E8%85%94%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%9D%9E%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E6%80%A7%E9%BC%BB%E7%82%8E)
重要なのは、急性鼻炎という表現だけで病因を確定しないことです。急性発症の鼻症状は、感染性鼻炎だけでなく、アレルギー性鼻炎、刺激性・血管運動性の非アレルギー性鼻炎、薬剤性鼻炎、急性鼻副鼻腔炎、異物、まれには髄液鼻漏などでも起こり得ます。医療従事者は症状の出現時期、周囲の感染状況、アレルゲン曝露、片側性か両側性か、全身症状、眼症状、顔面痛、服薬歴などを組み合わせて評価します。
厚生労働省:急性呼吸器感染症(ARI)


症状と鑑別:感染性・アレルギー性・鼻副鼻腔炎

急性鼻炎の症状は、病初期のくしゃみと水様性鼻漏から始まり、経過とともに鼻閉が目立つことが多いとされます。鼻汁が透明から粘稠になる、あるいは黄白色から黄緑色に見えることがありますが、鼻汁の色だけでは細菌感染や抗菌薬適応を判断できません。ウイルス感染でも炎症細胞や粘液成分の変化によって鼻汁の性状は変わるため、経過、発熱、疼痛、全身状態、鼻腔所見を総合して解釈する必要があります。
アレルギー性鼻炎との鑑別では、反復性・季節性・特定環境での再現性、鼻や眼の掻痒感、結膜症状、家族歴・アトピー素因、発熱や咽頭痛の乏しさが手掛かりになります。アレルギー性鼻炎は花粉などのアレルゲン曝露で発症し、掻痒感、くしゃみ、鼻漏、鼻閉、ときに結膜炎を呈する疾患です。急性鼻炎でもくしゃみや鼻漏は共通するため、短時間の診療では「いつから、何を契機に、毎年または同様の場所で反復するか」を具体的に確認することが重要です。
msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/12-%E5%85%8D%E7%96%AB%E5%AD%A6-%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E6%80%A7-%E8%87%AA%E5%B7%B1%E5%85%8D%E7%96%AB-%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E9%81%8E%E6%95%8F%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E6%80%A7%E9%BC%BB%E7%82%8E)

項目 基準・内容 備考
急性鼻炎 急な鼻漏、鼻閉、くしゃみを主体とし、感冒症状を伴うことが多い ウイルス性が中心で、通常は自然軽快が期待される
アレルギー性鼻炎 鼻・眼の掻痒感、反復するくしゃみ、水様性鼻漏、アレルゲン曝露との関連 発熱や強い全身倦怠感は通常前景に立ちにくい
急性鼻副鼻腔炎 鼻症状に加え、顔面痛、前頭部痛、顔面圧迫感、後鼻漏、咳嗽など 発症から4週間以内が急性の目安で、経過や重症度を評価する
薬剤性鼻炎 血管収縮性点鼻薬の連用後に強い鼻閉が持続または悪化する 使用薬剤、回数、連用期間を必ず聴取する

Minds:急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 2010年版


診察で確認する問診・所見・注意すべき症例

問診では、発症日、症状の推移、発熱の程度、同居家族や職場・学校での流行、咽頭痛・咳嗽・倦怠感の有無、嗅覚や味覚の変化、顔面痛、歯痛、頭痛、耳痛、眼症状を確認します。症状が「発症から10日以上改善しない」「初期軽快後に再増悪する」「高熱と強い局所症状を伴う」といった経過は、単純なウイルス性急性鼻炎のみでは説明しにくい可能性があり、急性細菌性鼻副鼻腔炎を含めた再評価が必要です。
視診・鼻鏡所見では、粘膜の発赤・浮腫、鼻汁の量と性状、片側性か両側性か、膿性分泌物の中鼻道への流出、鼻茸、出血、痂皮、異物を確認します。咽頭後壁の分泌物付着は後鼻漏の所見となり得ます。顔面圧痛だけで副鼻腔炎を確定することはできませんが、上顎洞・前頭洞領域の圧痛、眼窩周囲腫脹、眼球運動痛、視力・視野の異常、意識状態などは合併症評価の観点で重要です。

  • 眼瞼腫脹、眼球突出、複視、視力低下、眼球運動障害がある場合は、眼窩内合併症を念頭に緊急評価を行う
  • 強い頭痛、項部硬直、意識障害、神経学的異常、持続する高熱がある場合は、頭蓋内合併症や中枢神経感染症を除外する
  • 片側性の悪臭を伴う鼻漏、反復する鼻出血、明らかな片側性鼻閉では、異物、歯性病変、腫瘍性病変なども考慮する
  • 乳幼児、高齢者、免疫不全者、重篤な基礎疾患を有する患者では、症状が非典型的な場合もあるため全身状態を優先して評価する
  • 血管収縮性点鼻薬の長期・頻回使用がある場合は、反跳性鼻閉を含む薬剤性鼻炎を疑う

なお、急性呼吸器症状を診る際には、地域の流行状況、院内・施設内の感染対策、職業上の曝露リスクも踏まえる必要があります。急性鼻炎の訴えであっても、発熱、強い咽頭痛、咳嗽、呼吸困難、全身状態悪化があれば、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などを含む急性呼吸器感染症として検査適応や感染対策を判断します。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ari.html)


治療の基本:対症療法と抗菌薬適正使用

ウイルス性急性鼻炎が疑われ、重症所見や合併症を示す所見がない場合、治療の中心は休養、十分な水分摂取、室内環境の調整、症状に応じた対症療法です。鼻閉、睡眠障害、疼痛、発熱、咳嗽などが患者の生活に及ぼす影響を評価し、年齢、妊娠・授乳、腎機能・肝機能、循環器疾患、緑内障、前立腺疾患、併用薬などを確認して薬剤を選択します。薬剤の選択と投与量は、個々の患者の背景と添付文書、施設の採用薬・診療方針に従って判断します。
生理食塩水による鼻洗浄や加湿は、鼻腔内の分泌物を除去し、乾燥感や鼻閉感を軽減する目的で用いられることがあります。鼻洗浄を案内する場合は、衛生的な水と適切な器具を使用し、耳痛や強い疼痛が出る場合には中止することを説明します。市販薬を自己判断で複数併用している患者では、総合感冒薬に含まれる解熱鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、交感神経刺激薬などの重複摂取にも注意が必要です。
血管収縮性点鼻薬は鼻閉を短期的に軽減し得ますが、連用すると反跳性鼻閉や薬剤性鼻炎につながるおそれがあります。したがって、使用する場合でも漫然と継続させず、必要最小限の期間・用法に留め、症状が続く際は原因を再評価します。鼻閉改善薬の点鼻薬や内服薬には鼻粘膜血管を収縮させる作用がある一方、製品ごとの禁忌・慎重投与や年齢制限があるため、個別の添付文書確認が欠かせません。
msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/19-%E8%80%B3-%E9%BC%BB-%E3%81%AE%E3%81%A9%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%BC%BB%E3%81%A8%E5%89%AF%E9%BC%BB%E8%85%94%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%BC%BB%E7%82%8E)
抗菌薬は、単純な急性ウイルス性鼻炎に対して原則として不要です。不要な抗菌薬投与は、有害事象、薬剤耐性、医療費増加などにつながるため、患者に「鼻汁が黄色いから抗菌薬が必要とは限らない」「多くの感冒性鼻症状は時間経過とともに改善する」ことを具体的に説明します。急性鼻副鼻腔炎が疑われる場合でも、近年の成人診療ガイドライン改訂に関する報告では、非合併症例の初期管理として経過観察を推奨し、抗菌薬の適応基準を明確化する方向性が示されています。重症度、症状持続、再増悪、基礎疾患、合併症リスクを踏まえ、抗菌薬の要否を個別に判断する姿勢が重要です。
academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/6b4aa580-a62a-446f-ae39-81535016eec5)


患者説明とフォローアップの実践ポイント

急性鼻炎の診療では、病名を伝えるだけでなく、「現時点では感冒に伴う急性鼻炎が最も考えやすいこと」「通常は数日からおおむね1週間程度で改善方向に向かうことが多い一方、症状の経過には個人差があること」「抗菌薬はウイルス性の鼻炎を早く治す薬ではないこと」を平易に説明します。患者が不安を抱きやすい鼻汁の色、鼻づまり、夜間の咳についても、何を観察すべきかを明確に示すことで、不必要な受診や抗菌薬への期待を減らしやすくなります。
再診の目安としては、呼吸苦、胸痛、意識状態の変化、脱水、摂食・飲水不良、持続または増悪する高熱、強い顔面痛、眼周囲の腫脹、視覚異常、激しい頭痛、症状の10日以上の遷延、いったん改善した後の明らかな再増悪などを具体的に共有します。小児では活気不良、哺乳不良、尿量低下、呼吸状態の悪化を、高齢者や免疫不全者では非典型的な全身状態悪化を見逃さないことが大切です。
医療従事者向けには、急性鼻炎を「ありふれた軽症疾患」と固定的に扱わず、感染症診療、抗菌薬適正使用、感染対策、アレルギー診療、耳鼻咽喉科への紹介判断をつなぐ入口として捉えることが有用です。たとえば、春季に毎年同様の水様性鼻漏と眼掻痒が出現する患者であればアレルギー性鼻炎の評価へ、感冒後に頬部痛と膿性後鼻漏が持続し再増悪する患者であれば急性鼻副鼻腔炎の評価へ進みます。症状の強さだけでなく、時間経過と随伴所見を軸に整理することが、過剰治療を避けながら見逃しを減らす実践的な方法です。
msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/12-%E5%85%8D%E7%96%AB%E5%AD%A6-%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E6%80%A7-%E8%87%AA%E5%B7%B1%E5%85%8D%E7%96%AB-%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E9%81%8E%E6%95%8F%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E6%80%A7%E9%BC%BB%E7%82%8E)