

抗真菌薬外用は、皮膚表層に限局する真菌感染症の標準的治療である。主な対象は、皮膚糸状菌による白癬、Candida属による皮膚カンジダ症、Malassezia関連疾患である癜風などである。白癬には足白癬、体部白癬、股部白癬が含まれ、病変の分布、鱗屑、水疱、環状紅斑、浸軟、角化などの所見を踏まえて評価する。
日本皮膚科学会・日本医真菌学会の皮膚真菌症診療ガイドラインでは、足白癬、体部白癬、股部白癬に対して外用抗真菌薬による治療が強く推奨されている。皮膚カンジダ症についても、原則として外用抗真菌薬が治療の中心となる。限局性で皮膚表層にとどまる病変では、適切な外用治療と環境調整により改善が期待できる。一方で、爪白癬、広範囲病変、角化型足白癬、外用治療で改善しない症例、免疫抑制状態が疑われる症例などでは、診断の再検討や内服治療を含む専門的評価が必要となる。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/2013/08/19e2ae577a696f81acf51fdcc0173e2c.pdf
臨床上の重要点は、「かゆみがあるから真菌症」とは限らないことである。足趾間の発赤・落屑では接触皮膚炎、湿疹、紅色陰癬、細菌感染なども鑑別対象となる。股部の紅斑ではカンジダ性間擦疹、白癬、逆型乾癬、接触皮膚炎などを考える必要がある。外用抗真菌薬を漫然と反復する前に、可能であれば直接鏡検による真菌要素の確認を行い、真菌症であることと病型を確認する姿勢が適正使用の土台となる。
特にステロイド外用薬の不適切な単独使用は、白癬の炎症所見を修飾し、診断を遅らせる要因になり得る。真菌感染症が疑われる皮疹に対してステロイドを使用する場合は、感染症を悪化させる可能性を認識し、抗真菌治療の必要性、治療反応、再評価時期を明確にしておくことが重要である。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/04987476234213
皮膚真菌症診療ガイドライン2025
外用抗真菌薬には、イミダゾール系、アリルアミン系、ベンジルアミン系、モルホリン系、チオカルバミン酸系などがある。製剤ごとに承認効能・効果、用法・用量、剤形、使用可能部位、年齢に関する情報、妊婦・授乳婦への使用上の注意は異なるため、一般名や系統のみで一律に扱わない。処方監査や服薬指導では、必ず当該製剤の電子添文を確認する。
たとえば、ケトコナゾール外用製剤の一部では、白癬、皮膚カンジダ症、癜風、脂漏性皮膚炎が効能又は効果に含まれ、白癬・皮膚カンジダ症・癜風には通常1日1回、脂漏性皮膚炎には通常1日2回の塗布とされている。一方、テルビナフィン外用製剤では白癬や皮膚カンジダ症などを適応とし、通常1日1回塗布とする製剤がある。薬剤の抗真菌スペクトラムだけでなく、承認された疾患と用法を照合することが欠かせない。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/470006_2655709N1053_2_03
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| イミダゾール系 | 白癬、皮膚カンジダ症、癜風に適応を持つ製剤が多い | ケトコナゾールなどでは脂漏性皮膚炎に適応を有する製剤もある |
| アリルアミン系 | テルビナフィンなど。主に皮膚糸状菌症で広く使用される | 製剤によって皮膚カンジダ症への適応も確認する |
| 剤形の選択 | クリーム、軟膏、液剤、スプレーなどから皮疹と部位に合わせて選ぶ | 湿潤部、びらん、亀裂、毛髪部、足底角化などで刺激性と使用性を評価する |
| 用法の確認 | 多くは1日1回または1日2回の塗布である | 疾患・有効成分・製剤により異なるため添文確認が必要 |
| 眼・粘膜への使用 | 原則として眼科用ではない | 角膜・結膜への使用を避け、誤入時の対応を事前に説明する |
剤形選択では、足底や踵のように角質が厚い部位、趾間のように浸軟しやすい部位、乳房下・鼠径部・腋窩などの間擦部、頭部・体幹など、それぞれの局所環境を考慮する。液剤は毛のある部位や趾間に使いやすい一方、アルコール性基剤を含む場合にはびらん面や亀裂部で刺激感を生じることがある。軟膏は保護性を期待できる反面、湿潤しやすい間擦部では使用感や蒸れへの配慮が必要である。製剤選択では、薬理作用に加えて患者が継続しやすい使用感も治療成否に直結する。
PMDA医療用医薬品添付文書情報
抗真菌薬外用の失敗原因として多いのは、塗布量不足、塗布範囲不足、塗布回数の誤り、症状軽快後の早期中断である。患者は発赤や掻痒が目立つ中心部だけに少量を塗りがちであるが、病変周囲にも真菌が存在する可能性がある。白癬では、目に見える皮疹だけではなく周囲の健常に見える皮膚も含めて、十分な範囲に薄く均一に塗り広げるよう説明する。
足白癬の指導では、入浴または洗浄後に水分をよく拭き取ること、足趾間まで確認すること、薬剤を足底・足趾間・足縁など病変分布に応じて塗ることを具体的に伝える。塗布前の洗浄は強い摩擦を避け、清潔と乾燥を保つことが目的である。角質を無理に削る、強くこする、複数の外用薬を自己判断で重ねるといった行為は、皮膚バリアを損ない刺激性皮膚炎を招くおそれがある。
皮膚カンジダ症では、抗真菌薬の塗布に加え、発症要因となる湿潤、摩擦、密閉、失禁、肥満に伴う皮膚の重なりなどへの介入が重要となる。間擦部を清潔かつ乾燥した状態に保ち、必要に応じて衣類、吸湿材、スキンケア方法、失禁ケアを見直す。局所環境の改善なしに薬剤のみを追加しても、再燃を繰り返すことがある。ガイドラインでも、皮膚カンジダ症では患部を清潔に保ち乾燥させることが回復促進と再発予防に寄与するとされている。
抗真菌薬外用では、症状が改善した時点と真菌学的な治療成功が一致するとは限らない。掻痒や発赤は比較的早く軽快しても、角質内に残存する真菌が再増殖すれば再発につながる。そのため、患者には「見た目が良くなったので終了」と自己判断せず、処方日数、医師の指示、再診時期に従うよう伝える必要がある。
治療反応の評価では、初診時の病変範囲、鱗屑、紅斑、水疱、亀裂、浸軟、掻痒、疼痛などを記録し、再診時に客観的に比較できるようにする。改善不良時は、アドヒアランス不足、塗布範囲不足、使用回数の誤り、再感染、家族内・施設内での共有物、足部の高湿度環境、爪白癬の併存、誤診、接触皮膚炎、細菌感染の合併などを系統的に確認する。
足白癬では外用療法が基本である一方、角化型で病変が広範囲の症例、十分な外用治療でも改善が乏しい症例、爪白癬を伴い足部への再感染源が持続している症例などでは、内服抗真菌薬を含む治療の適否を検討する。経口テルビナフィンの電子添文でも、罹患部位、重症度、感染範囲から内服が適切と判断される患者に使用し、外用抗真菌薬で治療可能な患者には使用しないことが示されている。すなわち、外用治療と内服治療は単純な優劣ではなく、病変の深さ、範囲、角質・爪への波及、治療反応に応じて選択する。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/14987901070109
爪白癬は足白癬と混同されやすいが、爪甲内・爪床に病変が及ぶため、一般的な皮膚用外用薬を足皮膚へ塗布するだけでは治療できない。爪病変の混濁、肥厚、爪甲剥離、爪下角質増殖を認める場合は、爪白癬の診断と治療方針を別途評価する。外用爪治療薬、内服治療、爪切削などの選択は、罹患爪数、病変範囲、爪母の関与、併存疾患、併用薬などを踏まえて医師が判断する領域である。
外用抗真菌薬は局所治療であるものの、副作用がないわけではない。主な問題は、適用部位の刺激感、そう痒、発赤、接触皮膚炎、湿疹様変化、びらんなどである。症状が改善せず、むしろ塗布部位の発赤や疼痛が拡大する場合は、真菌症の悪化だけでなく、薬剤または基剤による接触皮膚炎、誤診、細菌感染の合併などを考慮する。単に塗布回数や量を増やすのではなく、使用中止を含めて処方医へ情報共有する。
眼周囲に使用する際は、眼への流入を避ける。製剤によっては、眼科用として角膜・結膜に使用しないこと、誤って眼に入った場合には流水で十分に洗い流すことが注意事項として示されている。また、著しいびらん面への使用を避けるべき製剤もあるため、皮膚バリアが大きく破綻した病変では製剤選択を慎重に行う。アルコール性基剤を含む液剤では、亀裂・びらん・掻破痕がある部位で刺激症状が起こり得る点も事前に説明しておく。
妊婦、妊娠している可能性がある患者、授乳婦、小児、高齢者、広範囲に病変を有する患者では、各製剤の電子添文に沿ったリスク評価が必要である。外用であっても、適用面積、皮膚損傷の程度、密封状態、使用期間などが安全性に影響し得る。医療従事者は「外用だから安全」と一括りにせず、製剤別の禁忌、特定の背景を有する患者への注意、使用上の注意を確認する。
最終的に、抗真菌薬外用の適正使用は、正しい診断、承認適応と用法の確認、部位・皮疹に合った剤形選択、十分な塗布範囲、治療継続、生活環境への介入、改善不良時の早期再評価によって支えられる。処方時・調剤時・看護ケア時にこれらを共通言語として共有することで、再発や不必要な薬剤追加を抑え、真菌症患者の治療アウトカム改善につなげることができる。