緊急往診の算定要件と現場対応を解説

緊急往診の算定要件と現場対応を解説

緊急往診は、患者の急変時に在宅療養を支える重要な診療です。本記事では、往診と訪問診療の違い、緊急往診加算の対象、時間帯別加算、診療録に残すべき内容、多職種連携の実務を整理し、適正な対応と請求につなげられるでしょうか?

緊急往診の基礎知識と核心ガイド

緊急往診の判断と実務対応
往診は臨時の要請に対応する診療

患者・家族などの直接要請を受け、医師が必要性を判断して可及的速やかに患家へ赴く診療が往診です。

緊急性と時間帯を分けて確認する

緊急往診加算は標榜時間内の緊急対応が対象であり、夜間・休日・深夜の加算とは要件を区別します。

平時の情報共有が急変時を支える

ACP、治療方針、連絡先、薬剤、救急搬送希望を多職種で共有し、診療録にも判断経過を残すことが重要です。

緊急往診とは何か:訪問診療との違いを明確にする


緊急往診とは、在宅や施設で療養する患者の病状急変、急性症状の出現、看取り期の変化などに対し、患者本人、家族、または現に看護・介護に当たっている者からの求めを受けて、医師が可及的速やかに患家へ赴いて診療する対応を指します。医療従事者の実務では「緊急の訪問」と表現されることもありますが、診療報酬上は往診料と、その要件に該当する場合の緊急往診加算、夜間・休日往診加算、深夜往診加算を切り分けて考える必要があります。
往診料は720点です。算定の基本は、患者または家族等が保険医療機関へ電話などで直接往診を求め、医師が往診の必要性を認め、可及的速やかに患家に赴いて診療を行うことです。あらかじめ決められた日時に訪問する定期・計画的な診療は往診ではなく、原則として在宅患者訪問診療料の対象となります。つまり、「予定外の急な要請への対応」が往診、「医学管理計画に基づく定期訪問」が訪問診療という整理が基本です。令和8年 医科診療報酬点数表 C000 往診料
ただし、予定外の連絡があれば常に緊急往診加算を算定できるわけではありません。たとえば、電話で症状を聴取した結果、医師が救急要請を優先すべきと判断した場合、訪問看護師の緊急訪問や臨時の電話指示で安全に対応できる場合、翌日の計画訪問まで待機可能と医学的に判断される場合などは、往診の必要性や緊急性を個別に評価します。診療報酬上の適正請求だけでなく、患者安全、限られた在宅医療資源の適切な配分、地域の救急体制との連携という観点からも、電話トリアージを標準化することが重要です。
なお、緊急往診は「要請の時刻」だけでなく、「連絡内容」「医師の判断」「実際の出発・到着・診察時刻」「診療内容」「その後の方針」まで一連の経過として記録することが求められます。単に「家族希望により往診」とだけ残すのではなく、どのような症状変化があり、電話だけでは対応困難と判断した理由は何かを具体的に記載することで、診療の継続性と請求根拠の両方を支えられます。

緊急往診加算の対象と点数の考え方

緊急往診加算は、保険医療機関の標榜時間内で、入院中ではない患者に対する診療に従事している際、患者または現に看護に当たる者から緊急に求められて往診を行った場合に算定する加算です。通知上の「別に厚生労働大臣が定める時間」は、保険医療機関で専ら診療に従事している時間であり、概ね午前8時から午後1時までとされています。
「緊急に行う往診」は、単に家族が不安を訴えたという事情だけで決まるものではありません。患者または看護者からの訴えにより、速やかに往診しなければならないと医師が判断した場合が対象です。具体例として、急性心筋梗塞、脳血管障害、急性腹症などが予想される病態が示されています。小児では、低体温、けいれん、意識障害、急性呼吸不全などが予想される場合も含まれます。また、当該医療機関または連携医療機関が訪問診療を提供している医学的終末期患者への往診も、緊急往診加算の対象となり得ます。厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(在宅医療・訪問看護)」

項目 基準・内容 備考
往診料 720点 直接の求めに応じ、可及的速やかに患家で診療した場合
緊急往診加算 325点から850点 標榜時間内に外来等の診療中、緊急の求めに応じて往診した場合
夜間・休日往診加算 405点から1,700点 夜間・休日の往診で、医療機関区分と患者区分により点数が異なる
深夜往診加算 485点から2,700点 深夜の往診で、医療機関区分と患者区分により点数が異なる
患家診療時間加算 30分ごとに100点 実際の診療時間が1時間を超えた場合に算定を検討する

緊急往診加算の点数は、医療機関の区分と患者区分によって異なります。機能強化型の在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院では、病床の有無に応じて850点または750点、その他の在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院では650点、その他の医療機関では325点となります。診療報酬請求では、自院が届出上どの区分に当たるか、患者が所定の「厚生労働大臣が定める患者」に該当するかを、事前にマスタ化しておくと判断が安定します。
点数の確認だけで終わらせず、緊急往診の判断を「患者安全のための臨床判断」と「算定要件を満たすかの事務判断」に分ける運用が有用です。臨床的に救急搬送が必要なら、往診を優先するのではなく119番通報や救急外来への連携を選択します。一方で、終末期患者の疼痛増悪、呼吸困難、せん妄、出血、家族が看取りに際して強い不安を抱いている場面などでは、事前の意思決定支援と対応方針を踏まえ、在宅での緊急往診が患者・家族の希望に沿うことがあります。

夜間・休日・深夜の対応で注意するポイント

夜間・休日・深夜の往診では、緊急往診加算とは別の時間帯加算を検討します。夜間は深夜を除く午後6時から午前8時まで、深夜は午後10時から午前6時までです。休日は日曜日、国民の祝日、1月2日・3日、12月29日から31日とされています。ただし、その時間帯が当該医療機関の標榜時間に含まれている場合、夜間・休日往診加算および深夜往診加算は算定できません。

  • 電話を受けた時刻、医師が緊急対応を判断した時刻、患家に到着した時刻、診療開始・終了時刻を記録する
  • 患者の主訴だけでなく、バイタル、意識状態、呼吸状態、疼痛、出血、尿量、摂取状況などを聴取する
  • 救急搬送の必要性と、本人・家族が望む療養場所や延命措置に関する意向を確認する
  • 主治医、当番医、訪問看護、薬局、施設職員、家族の役割分担と連絡先を平時から明確にする
  • 往診後は処方変更、臨時指示、観察項目、再連絡の条件、翌日以降のフォロー計画を共有する

夜間帯に患者家族から「熱がある」「呼吸が苦しそう」「反応が鈍い」と連絡を受けたときは、診療報酬の算定可否よりも先に、緊急性を見逃さない電話評価が必要です。具体的には、急な意識障害、明らかな呼吸困難、胸痛、麻痺やろれつ不良、持続するけいれん、大量出血、急激な循環不全などがあれば、直ちに救急要請を含めた対応を検討します。往診医が向かうことが患者にとって最善か、救急車による高次医療機関への搬送が最善かは、症状の重篤性と患者の事前意思を統合して決めなければなりません。
一方、終末期の患者では、救急搬送を望まない意思が確認されており、症状緩和と自宅での看取りを希望していることがあります。この場合も、単に「搬送しない」ではなく、DNARの確認、苦痛緩和の手順、家族への説明、訪問看護師による観察、医療用麻薬を含む薬剤の使用方針、死亡時の連絡フローを共有しておく必要があります。緊急往診は、こうした平時の準備が実際に機能するかを問われる場面でもあります。

診療録・レセプトで残すべき記録と請求実務

緊急往診の適正請求では、「実際に往診した」という結果だけでは不十分です。診療録には、要請者、連絡手段、連絡を受けた日時、患者の訴え・観察事項、医師が緊急往診を必要と判断した医学的理由、往診日時、診察所見、検査・処置・処方、説明内容、療養方針、連携先への情報共有内容を残します。緊急往診加算を算定する場合は、標榜時間内に診療へ従事していた状況と、緊急に求められた経緯が読み取れる記録が特に重要です。
例えば、「15時10分、訪問看護師より連絡。午後から急速に呼吸数増加、酸素飽和度低下、喘鳴を認め、電話のみでの状態評価は困難。急性心不全、肺炎、誤嚥、気道分泌物貯留等を鑑別し、速やかな対面診察が必要と判断。15時25分出発、15時50分到着」のように、経過と判断根拠を具体的に記録します。その後の診察で、バイタルサイン、呼吸音、意識、浮腫、痰の性状、服薬状況、家族の希望、搬送の要否を残し、在宅継続とする場合には観察項目と再連絡基準も記載します。
患家における実際の診療時間が1時間を超える場合には、患家診療時間加算として30分またはその端数ごとに100点を加算できる取扱いがあります。ただし、交通事情や待機など、診療の必要性以外の理由で患家に滞在した時間は診療時間に含まれません。到着・退室時刻だけでなく、実際の診療に要した時間と内容を記録しておくことが必要です。
また、同一の患家や、ホーム全体を同一患家とみなすことが適当な有料老人ホーム等で複数患者を診療した場合、原則として2人目以降に往診料は算定できません。複数患者への対応が起こり得る施設では、緊急連絡の対象者、要請の起点、同一患家の扱い、診療報酬上の請求単位について、医事部門と現場で事前に確認しておくことが重要です。
往診に要した交通費は患家負担とされ、自家用車に係る費用も含まれます。一方、16キロメートルを超える往診は、絶対的に必要な理由がある場合に保険診療として認められる取扱いです。患者や家族の希望だけで遠距離往診を実施した場合は、保険診療としての往診料算定が認められないため、遠隔地対応のルールや費用説明も運営上の重要な論点になります。

多職種連携で緊急往診の質を高める仕組み

緊急往診を属人的な「当直医の頑張り」に依存させると、対応品質のばらつき、情報不足、不要な搬送、スタッフの疲弊につながります。緊急時に必要な情報を平時に整備し、医師、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャー、介護職、施設職員、後方支援病院などが同じ対応方針を参照できる運用を作ることが重要です。
共有すべき情報には、主病名・既往歴、アレルギー、現在の薬剤と最終投薬時刻、医療機器の種類と設定、急変時の連絡順位、救急搬送の希望、DNARやACPの内容、看取りの希望、家族代表者、連携先医療機関、訪問看護の対応可能時間帯などがあります。患者の状態変化により方針が変わった場合は、電子カルテ、地域連携ツール、施設の連絡ノートなどを通じて速やかに更新し、古い情報が緊急時の誤判断につながらないよう管理します。
在宅療養支援診療所または在宅療養支援病院が、他の医療機関と平時から定期カンファレンスやICTで情報共有を行い、他院の主治医が往診困難な時間帯に往診する場合には、往診時医療情報連携加算200点の対象となることがあります。この場合、連携元医療機関名、参照した診療情報、急変時の対応方針、診療の要点を診療録に記載することが必要です。厚生労働省「在宅医療におけるICTを用いた連携の推進」
介護老人保健施設、介護医療院、特別養護老人ホームなどの協力医療機関が、入所者の急変に伴い、事前に共有された診療情報と急変時対応方針を踏まえて往診し、患者または施設職員に治療内容を十分説明した場合には、介護保険施設等連携往診加算200点の対象となることがあります。平時のカンファレンス、協力医療機関としての体制整備、ICTで情報を確認できる仕組みが、緊急往診の臨床的な質と制度上の評価の両面を支えます。
緊急往診の運用を見直す際は、電話トリアージ票、緊急対応フローチャート、診療録テンプレート、連携先一覧、救急搬送判断の手順、翌営業日の振り返り会議を一体で整備すると効果的です。月ごとに緊急往診件数、要請理由、搬送率、看取り率、時間外対応時間、再往診率、インシデントを集計すれば、地域や患者群で頻発する課題を可視化できます。緊急往診を単なる臨時対応ではなく、患者の意思を尊重しながら地域で療養を継続するための医療安全システムとして設計することが、医療従事者に求められる実務といえるでしょうか?




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