往診料は、医師が患者のいる場所へ赴いて診療を行ったことを評価する診療報酬であり、医科点数表ではC000「往診料」として定められています。基本点数は720点です。1点10円であるため、保険診療上の医療費ベースでは7,200円に相当しますが、患者の実際の負担額は、負担割合、公費負担医療制度の適用、診療で実施した検査・処置・投薬等の有無によって変動します。
ただし、720点という数字だけで請求可否を判断してはいけません。往診料の本質は、患者または家族、現に看護に当たる者等からの求めに応じ、保険医療機関の医師が往診の必要性を認め、可及的速やかに患者宅などへ赴き診療を実施したことへの評価です。電話等による直接の依頼を受けたこと、医師が必要性を判断したこと、臨時性があること、実際に訪問して診療を行ったことを、診療録上で一連の事実として説明できる状態にする必要があります。
往診は、発熱、呼吸苦、転倒後の状態変化、疼痛増悪、意識状態の変化、終末期患者の急変など、通院が直ちに困難または不適切であり、患者の状態に照らして訪問による診療が必要と判断される場面で想定されます。患者の居宅だけでなく、患者が療養している場所の実態に応じて、介護保険施設等に入所している患者への緊急対応も問題になります。重要なのは、単に医師が患者の所在地に赴いた事実ではなく、患者側からの求めに応じた臨時の診療として位置付けられることです。
令和6年度診療報酬改定では、患者の状態に応じた適切な往診を推進する観点から、緊急往診に関する評価が見直されました。現行の実務では、患者が自院の継続診療患者であるか、他院との連携体制の下で対応する患者であるか、介護保険施設等との平時からの連携があるかなどが、加算評価の判断に関わります。往診を「急な呼び出しへの対応」とだけ捉えず、平時の情報共有と24時間対応体制を含む在宅医療提供体制の一部として運用する視点が必要です。
厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(在宅医療、訪問看護)」
往診料と在宅患者訪問診療料は、どちらも医師が患者のもとへ赴いて行う診療に関する評価ですが、算定の前提が大きく異なります。実務上の最重要ポイントは、「患者の状態変化に対する臨時・緊急の対応か」、それとも「計画に基づく定期的・継続的な診療か」を明確に区別することです。
往診料は、患者または家族等から直接求めがあったことを契機に、医師が必要性を認めて、可及的速やかに赴く臨時対応に用います。一方で、在宅患者訪問診療料は、通院による療養が困難な患者に対して、主治医が計画的・定期的に訪問して診療を行う場合に検討する点数です。したがって、同じ患者宅を訪問していても、あらかじめ組まれた定期訪問日であれば、通常は往診料ではなく訪問診療料の考え方で判断します。
| 項目 | 往診料 | 在宅患者訪問診療料 |
|---|---|---|
| 診療の性質 | 臨時・緊急の求めへの対応 | 計画的・定期的な訪問診療 |
| 訪問の契機 | 患者、家族、看護者等からの直接の求め | 主治医の医学管理計画に基づく継続診療 |
| 訪問時期 | 必要性を認めた後、可及的速やかに実施 | あらかじめ定めた診療計画に沿って実施 |
| 基本点数の例 | 720点 | 居住場所や単一建物居住者数等で区分 |
| 典型例 | 夜間の発熱、急な呼吸苦、転倒後の診察依頼 | 月2回などの定期的な慢性疾患管理 |
| 注意点 | 定期・計画的訪問には算定できない | 通院困難性、継続的な医学管理などを確認 |
例えば、月2回の定期訪問診療を受けている患者が、予定外の日に発熱と呼吸苦を生じ、家族から診療所へ電話があり、医師が緊急性を認めて当日中に訪問した場合は、定期の訪問診療とは別に往診料の対象となり得ます。ただし、電話連絡の時刻、症状、依頼者、医師の判断、訪問時刻、診察内容、処置内容、帰宅後の指示などを診療録に残しておくことが不可欠です。
反対に、「毎週水曜日に施設へ行く予定だったが、患者の状態が悪いので先に診る」という事例では、もともとの定期訪問計画との関係を慎重に確認する必要があります。予定を前倒ししただけなのか、予定外の急変に対して独立した診療が必要なのかにより、往診料の考え方は変わります。算定根拠を後から説明できるよう、単なる訪問日変更ではなく、患者側からの緊急の求めと、その時点での医学的必要性があったかを具体的に記録します。
往診料には、実施した時間帯や患者との関係、医療機関の区分に応じて、緊急往診加算、夜間・休日往診加算、深夜往診加算が設けられています。これらは基本の往診料720点に加算して評価されるため、レセプト点検では基本点数だけでなく、加算の要件を個別に確認する必要があります。
緊急往診加算は、標榜時間内に、入院中の患者以外に対して診療に従事している際、患者または現に看護に当たる者から緊急に求められて往診を行った場合に算定します。夜間は原則として午後6時から午前8時まで、深夜は午後10時から午前6時までです。ただし、その時間帯が当該医療機関の標榜時間に含まれている場合は、夜間・休日往診加算および深夜往診加算を算定できません。休日は日曜日、国民の祝日、ならびに1月2日・3日、12月29日から31日として取り扱われます。
令和6年度改定後は、往診を行う医療機関で過去60日以内に在宅患者訪問診療料等を算定している患者、自院と連携体制を構築する他医療機関で過去60日以内に在宅患者訪問診療料等を算定している患者、自院外来で継続的に診療を受けている患者、平時から連携体制を構築している介護保険施設等の入所患者などが、加算における患者区分の判断に関係します。患者が「自院にとってどのような継続関係にあるか」を、診療録、連携記録、契約・届出状況と整合させて確認することが重要です。
また、往診時に検査、処置、注射、処方、医学管理などを実施した場合は、各項目について別途算定できる可能性があります。ただし、個々の行為について包括・併算定制限や算定回数の制約が存在するため、「往診料720点に何でも上乗せできる」と理解するのは誤りです。実際の請求では、当該診療行為の算定要件、他の包括管理料との関係、在宅患者訪問診療料との同日算定の考え方などを、当該月の点数表・留意事項通知・疑義解釈で確認してください。
厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について(関係法令・通知)」
往診料は、臨時性と必要性が判断の中心となるため、診療録の記載品質が算定の根拠そのものになります。「往診した」「電話があった」といった短い記録だけでは、定期訪問との区別、緊急性、加算の適否を後から説明しにくくなります。請求担当者、医師、看護師、事務スタッフの間で、必要項目を共通認識にしておくことが重要です。
まず、連絡を受けた日時と連絡者を記録します。連絡者は患者本人、家族、訪問看護師、介護施設職員、ケアマネジャーなどが考えられますが、誰がどの立場で、どのような症状または変化を訴えたのかを明確にします。次に、電話等で得た情報、トリアージ内容、医師が往診を必要と判断した理由、訪問開始・終了時刻、診察所見、実施した検査・処置、処方または療養指導、家族や関係職種への説明内容を残します。
夜間・休日・深夜加算を算定する場合には、患者側からの依頼を受けた時刻と実際の診療時刻の双方を記録し、標榜時間との関係を確認します。緊急往診加算を検討する際には、標榜時間内に入院患者以外への診療に従事していた事実、緊急の求めがあった事実、通常の予約枠や定期訪問では対応できない状態であったことが分かる記載が望まれます。
介護保険施設等で急変した患者に対応する場合は、施設名、施設職員から提供された情報、平時からの連携体制、急変時対応方針の有無、家族への説明、入院の要否と調整先も記録の対象です。令和6年度改定では、介護保険施設等の急変時に、協力医療機関として平時から連携し、診療情報や急変時対応方針を踏まえて往診した場合の介護保険施設等連携往診加算が新設されました。算定を検討する医療機関は、単発の往診対応だけでなく、協力医療機関としての連絡体制、情報共有、カンファレンス、掲示等の施設基準を含めて整備する必要があります。
往診料の運用は、急変時の単発対応にとどまりません。在宅療養を支える医療機関では、訪問診療を担う診療所、在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院、訪問看護ステーション、薬局、介護保険施設、後方支援病院などが、患者の急変時に必要な情報を共有できる体制を構築することが求められます。平時の連携が不足していると、急変時の判断が遅れるだけでなく、診療の継続性や患者本人の意思を踏まえた対応も難しくなります。
令和6年度診療報酬改定では、在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院が、連携する他の医療機関が訪問診療を行っている患者に対し、当該他院が往診困難な時間帯に往診した場合の「往診時医療情報連携加算」が新設されました。点数は200点です。算定には、他医療機関との月1回程度の定期的カンファレンスまたはICTを活用した情報共有、患者の診療情報と急変時対応方針の共有、担当先としての医療機関名・電話番号・担当者名などの情報提供、往診後の診療録記載が求められます。
また、介護保険施設等の入所者が急変した際、協力医療機関が診療情報と急変時対応方針を踏まえて往診し、患者または家族等に提供医療の内容を十分に説明した場合には、介護保険施設等連携往診加算200点が設けられています。施設側が連絡したという事実のみで算定できるものではなく、協力医療機関としての体制、入院受入体制、診療情報共有、カンファレンスの実施、診療録記載などが問われます。
終末期の往診では、本人の意思決定支援と家族への説明、多職種連携、看取り後の対応まで含めた質が重要です。往診料においても、死亡日および死亡日前14日以内の計15日間に退院時共同指導を行ったうえで往診した患者が在宅で死亡した場合、在宅ターミナルケア加算を算定できる取扱いが整備されています。さらに、一定の条件の下で、死亡日に往診を行い患家で看取った場合には、往診料の看取り加算3,000点が算定可能です。看取り加算と死亡診断加算は併算定できないため、最終局面の診療内容、死亡診断の実施場所・方法、患者と家族への説明経過を正確に記録して、適切な点数を選択します。
往診料を適正に算定するための最終確認では、患者・家族等からの直接の求め、往診の必要性に関する医師判断、計画的訪問診療との明確な区別、訪問・診療の実施事実、加算対象となる時間帯・患者区分・医療機関区分、診療録への必要事項記載を一つずつ点検することが重要です。診療報酬は改定や疑義解釈によって取扱いが更新されるため、請求時点の告示、通知、点数表、地方厚生局の案内を確認し、自院の運用基準を定期的に見直してください。
厚生労働省「診療報酬情報提供サービス」