腸重積症とは?診断と整復の実践ポイント

腸重積症とは?診断と整復の実践ポイント

腸重積症は腸管が腸管内へ入り込んで閉塞や腸管虚血を来し得る小児救急疾患です。典型的な症状、超音波診断、非観血的整復の適応と禁忌、成人例への対応を整理し、初療で見逃さないための要点を確認してみてはいかがでしょうか?

腸重積症とはの基礎知識と核心ガイド

腸重積症の初療と整復判断
腸管が嵌入する急性腹症

腸管の口側が肛門側腸管へ入り込み、腸閉塞、静脈うっ血、腸管虚血から壊死へ進展し得る病態である。

三主徴の欠如で除外しない

間欠的腹痛、不機嫌・啼泣、嘔吐、血便が重要だが、三主徴がそろわない例も多く、早期から疑う姿勢が必要となる。

超音波診断後に整復を判断

超音波で重積を確認し、ショック、腹膜炎、穿孔がなければ、画像誘導下の空気・液体注腸による非観血的整復を検討する。


腸重積症とは何か:病態と好発年齢



腸重積症とは、口側の腸管が隣接する肛門側腸管の内腔へ入り込む、いわゆる嵌入によって生じる腸閉塞性疾患である。入り込む側を内筒、受け入れる側を外筒と呼び、腸間膜も同時に牽引されるため、腸管壁の浮腫、静脈還流障害、出血、虚血が進行する。進行例では腸管壊死、穿孔、腹膜炎、敗血症性ショックに至るおそれがあるため、腸重積症は時間依存性の高い小児救急疾患として扱う必要がある。
小児で最も多い病型は、終末回腸が盲腸・上行結腸側へ嵌入する回腸結腸型である。乳幼児に多く、特発性が大半を占める。特発性例では、ウイルス感染などに伴う腸管リンパ組織、特にPeyer板の腫大が先進部形成に関与すると考えられている。一方、年長児、反復例、非典型的な部位の重積では、Meckel憩室、腸管重複症、ポリープ、リンパ腫などの病的先進部を念頭に置かなければならない。日本小児外科学会は、小児腸重積症の診療ガイドライン改訂第2版が2022年に発行されたことを案内しており、画像診断と整復術の進歩を踏まえた診療が求められる。
成人の腸重積症は小児と性格が異なる。成人例では腫瘍、ポリープ、術後変化、Meckel憩室など、器質的病変が先進部となる頻度が相対的に高い。したがって、成人の腸重積症では原因病変の検索を重視し、状況に応じてCTによる評価および外科的治療を検討する。小児の典型的な回腸結腸型に対する非観血的整復の考え方を、そのまま成人症例へ当てはめないことが重要である。


症状と診察:三主徴に依存しない疑い方

小児腸重積症で代表的に知られる症状は、間欠的腹痛、嘔吐、血便である。乳幼児では腹痛を言語化できないため、突然激しく泣く、膝を抱えるように丸まる、不機嫌が周期的に出現する、泣き止んだ後に一見落ち着いて見えるといった所見が重要となる。典型例では、15〜20分程度の間隔で仙痛発作を繰り返し、その間欠期には比較的元気そうに見えることがある。この「泣いては落ち着く」という経過が、単なる胃腸炎や便秘との鑑別における重要な手掛かりとなる。
嘔吐は早期からみられ得るが、病初期には胆汁性でない場合もある。血便は腸粘膜のうっ血や虚血が進行してから出現することが多く、粘液と血液が混じる便は「イチゴゼリー状便」と表現される。ただし、古典的三主徴がすべてそろうことはむしろ多くない。血便がないこと、腹部腫瘤を触知しないこと、発熱がないことだけで腸重積症を除外してはならない。

項目 基準・内容 備考
腹痛・不機嫌 突然の啼泣、顔面蒼白、下肢屈曲、間欠的な苦痛発作 間欠期に比較的平静に見えることがある
嘔吐 病初期から出現し得る。進行すると胆汁性嘔吐も考慮する 胃腸炎と誤認されやすい所見である
血便 粘血便、いわゆるイチゴゼリー状便 遅れて出現することがあり、欠如しても否定できない
腹部所見 右下腹部の空虚感、上腹部〜右上腹部の腫瘤、膨満、圧痛 腹膜刺激症状は壊死・穿孔を疑う警告所見となる
全身状態 傾眠、活気不良、循環不全、ショック徴候 非観血的整復の適否を含め緊急評価を要する

診察では、バイタルサイン、意識状態、末梢循環、脱水の程度を迅速に評価する。腹部では膨満、局在する圧痛、筋性防御、反跳痛、腫瘤の有無を確認する。特に持続痛、腹膜刺激症状、皮膚冷感、頻脈、血圧低下、反応性低下は、腸管虚血や穿孔を含む重症化の可能性を示す。腸重積症を疑う場合、診察や採血に時間を費やして画像評価および小児外科・放射線部門との連携が遅れないよう、初療動線をあらかじめ整備しておくことが望ましい。


診断の中心は腹部超音波検査

腸重積症の診断には腹部超音波検査が中心的役割を果たす。横断像で同心円状の層構造を示すtarget sign、縦断像で腎臓様に見えるpseudokidney signは代表的な所見である。超音波は放射線被曝がなく、ベッドサイドで迅速に実施できるうえ、重積腸管の部位、腸管壁の浮腫、腹水、リンパ節、病的先進部の可能性、カラードプラによる血流などを評価できる利点がある。報告では超音波診断の感度・特異度はいずれも高く、臨床的に疑った段階で早期に実施する価値が大きい。
腹部単純X線は腸重積症の確定診断を目的とする検査ではないが、腸閉塞の程度、腸管ガス像、遊離ガス像の有無を評価し、穿孔が疑われる症例の初期判断に役立つことがある。遊離ガス像を認める場合は消化管穿孔を強く疑う。注腸造影は、整復の手技と一体化して診断に用いられることがあるが、現在は超音波で診断した後、空気または水溶性造影剤、生理食塩水などを用いた画像誘導下整復へ進む運用が一般的である。
CTは小児の典型例でルーチンに必要とは限らない。一方、年長児、成人、病的先進部を疑う場合、腸管虚血や穿孔の程度を評価したい場合、超音波所見が非典型的な場合には有用性がある。成人で標的様構造を伴う腸重積を認めた際には、先進部となる腫瘍性病変の有無、腸管虚血、閉塞の程度、転移や腹膜播種の有無を含め、治療方針に結び付く読影が求められる。

  • 不機嫌、間欠的啼泣、反復する嘔吐を認める乳幼児では、血便を待たずに腸重積症を鑑別に置く。
  • 超音波ではtarget sign、pseudokidney sign、腹水、腸管血流、先進部を系統的に評価する。
  • 遊離ガス、腹膜刺激症状、ショック所見がある場合は、穿孔・壊死を想定して外科的対応を優先する。
  • 年長児、反復例、非典型病型では器質的先進部の検索を強化する。


初期対応と非観血的整復の適応

腸重積症を疑った場合の初期対応では、まずABC評価を行い、必要に応じて酸素投与、静脈路確保、輸液、電解質・血糖評価、鎮痛、嘔吐・誤嚥リスクへの対応を進める。循環不全や脱水を伴う例では、整復手技前に循環動態をできるだけ安定化させることが重要である。整復に先立ち、小児外科、放射線科、救急部門、麻酔・手術部門が連携できる体制を整え、穿孔や整復不成功時に直ちに外科的介入へ移行できるようにする。
全身状態が安定し、腹膜炎、明らかな腸管穿孔、持続するショック、腸管壊死を強く疑う所見がなければ、非観血的整復が第一選択となる。代表的には、透視または超音波の画像誘導下で、経肛門的に空気、造影剤、または生理食塩水を注入して重積腸管を押し戻す。空気注腸整復は診断と治療を兼ねる手技であり、回腸結腸型では高い整復成功率が報告されている。
一方で、ショックが改善しない場合、腹膜刺激症状がある場合、遊離ガス像などから消化管穿孔が疑われる場合には、非観血的整復は行わず外科的治療を選択する。整復中は患児の状態変化、腹部膨満、疼痛、穿孔兆候を厳重に観察する。整復成功の判断は、重積部の解除に加えて、造影剤または空気が回腸側へ十分通過すること、超音波上でtarget signが消失することなどを組み合わせて行う。
整復不成功例では手術が必要となる。手術では重積腸管を徒手的に整復し、腸管の色調、蠕動、拍動、血流を評価する。壊死や穿孔があれば腸管切除・吻合を要する。また、年長児、反復例、術中に先進部を認める例では、Meckel憩室、ポリープ、腫瘍、腸管重複症などを検索し、原因病変に応じた処置を行う。


整復後の観察と再発・成人例への視点

非観血的整復が成功した後も、再燃する腹痛、嘔吐、血便、発熱、腹部膨満、活気不良がないかを観察する。整復後には腸管浮腫が残ることがあり、まれに遅発性の穿孔や再重積が問題となる。観察時間や経口摂取再開の時期、帰宅基準は、患児の年齢、発症からの時間、整復時の経過、腹水や腸管壁浮腫の程度、家族の受診可能性、地域・施設のプロトコルを踏まえて判断する。退院時には、間欠的啼泣、反復嘔吐、血便、顔色不良、活気低下が再発の受診目安となることを家族へ具体的に説明する。
再発は一定の頻度で起こり得るため、既往があるからといって再度の腸重積症を安易に否定してはならない。再発例であっても、禁忌所見がなければ非観血的整復が選択されることがある。ただし、短期間に反復する例、年長で発症する例、病型が非典型的な例、超音波で先進部が疑われる例では、器質的疾患をより積極的に検索する必要がある。
成人の腸重積症は、腹痛、嘔吐、腹部膨満、便通異常など非特異的で亜急性の経過をとることがあり、小児のような典型的な三主徴を期待できない。成人例では画像診断で腸重積を確認した後、悪性腫瘍を含む先進部病変の存在を評価することが診療の中心となる。特に大腸型の成人腸重積では腫瘍性病変を念頭に置き、外科、消化器内科、放射線科、病理部門が連携して、切除範囲と腫瘍学的方針を検討する。
腸重積症の診療で最も重要なのは、典型的な血便や腹部腫瘤が出現してから対応するのではなく、間欠的腹痛や原因不明の不機嫌、嘔吐の段階で疾患を想起することである。超音波を迅速に活用し、穿孔・腹膜炎・ショックを見逃さず、適切な症例に安全な非観血的整復を実施できる体制を維持することが、腸管切除や重篤な合併症の回避につながる。


参考)腸重積症 - 19. 小児科 - MSDマニュアル プロフェ…

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