細菌の増殖を抑える薬

細菌の増殖を抑える薬

細菌に対して使う薬は一般に抗菌薬または抗生物質と呼ばれます。細菌の細胞壁、たんぱく質合成、DNA複製、葉酸代謝などを標的にして、細菌を殺す、または増殖を抑える働きをします。風邪の多くを含むウイルス感染症には抗菌薬は効かず、原因微生物、感染臓

細菌の増殖を抑える薬


細菌に対して使う薬は一般に抗菌薬または抗生物質と呼ばれます。細菌の細胞壁、たんぱく質合成、DNA複製、葉酸代謝などを標的にして、細菌を殺す、または増殖を抑える働きをします。風邪の多くを含むウイルス感染症には抗菌薬は効かず、原因微生物、感染臓器、重症度、薬剤耐性、腎機能・肝機能、アレルギー歴などを考慮して選択されます。


抗菌薬の不必要な使用や不適切な使い方は、薬剤耐性菌を増やす一因になります。厚生労働省の抗微生物薬適正使用の手引きでは、感染症の証拠がない場合には抗菌薬の中止を検討すること、臓器の症状に応じた培養検査を行うことなどが示されています。厚生労働省:抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 医科・入院編


主な種類と成分例





種類 成分の例 用途と役割
ペニシリン系抗菌薬 アモキシシリン水和物、アンピシリンナトリウム 感受性菌による呼吸器、皮膚、尿路、歯科・口腔などの感染症で用いる製剤がある
セフェム系抗菌薬 セファレキシン、セフトリアキソンナトリウム水和物 細菌の細胞壁合成を阻害し、感染部位や重症度に応じて用いる
マクロライド系抗菌薬 クラリスロマイシン、アジスロマイシン水和物 細菌のたんぱく質合成を抑え、呼吸器感染症などで用いる製剤がある
テトラサイクリン系抗菌薬 ドキシサイクリン塩酸塩水和物、ミノサイクリン塩酸塩 呼吸器、皮膚、歯科・口腔、性感染症など、製品ごとの適応に応じて用いる
ニューキノロン系抗菌薬 レボフロキサシン水和物、シプロフロキサシン塩酸塩水和物 DNA複製に関わる酵素を阻害し、尿路・呼吸器などの細菌感染症に用いる製剤がある
抗MRSA薬 バンコマイシン塩酸塩、リネゾリド メチシリン耐性黄色ブドウ球菌など、特定の耐性菌による感染症に用いる


抗菌薬ごとの作用の違い


ペニシリン系やセフェム系は、細菌の細胞壁を作る仕組みを妨げるβラクタム系抗菌薬です。アモキシシリンは、感性菌による皮膚・呼吸器・尿路・耳鼻咽喉科・歯科口腔領域の感染症などに用いられるほか、ヘリコバクター・ピロリ感染症に対する除菌療法にも、組み合わせ治療の一部として使われます。適応菌種・適応症は電子添文に具体的に定められています。PMDA:医療用医薬品情報検索(アモキシシリン製剤の電子添文)


マクロライド系は細菌のたんぱく質合成を妨げます。クラリスロマイシンやアジスロマイシンは呼吸器感染症などで用いられますが、菌種や地域の耐性状況、他の薬との相互作用を考慮する必要があります。たとえばクラリスロマイシンは、薬物代謝酵素を介した相互作用に注意を要する薬の一つです。


テトラサイクリン系もたんぱく質合成を抑える薬ですが、歯や骨への影響、妊娠・授乳中や小児での扱いなどに注意が必要な場合があります。ニューキノロン系はDNA複製に関わる酵素を標的とし、幅広い菌に作用する一方で、腱障害、中枢神経系の症状、血糖異常、大動脈に関するリスクなど、製剤ごとに重要な注意事項があります。


耐性菌に対する薬


抗MRSA薬は、一般的なβラクタム系抗菌薬が効きにくいMRSAなどを対象に使われます。バンコマイシンは血中濃度を確認しながら用いられることがあり、腎機能や聴覚への影響に注意が必要です。リネゾリドは内服できる製剤もありますが、血球減少、神経障害、セロトニン作動薬との相互作用などを確認します。


広い範囲の菌に作用する薬が常に優れているわけではありません。可能であれば培養検査や感受性検査の結果を踏まえ、原因菌に適した抗菌薬へ変更することが、治療の適正化と耐性対策につながります。


剤形と使い分けの考え方


抗菌薬には錠剤、カプセル、細粒、ドライシロップ、注射剤、点滴静注薬、外用薬、点眼薬、点耳薬などがあります。重症感染症では注射・点滴から開始することがあり、全身状態や感染の改善に応じて内服薬へ切り替える場合があります。皮膚・目・耳など局所の感染症では、外用剤や局所用製剤が選択されることもあります。


治療に必要な期間や投与方法は、感染部位、原因菌、重症度、手術やドレナージの必要性、免疫状態によって異なります。症状が軽くなったことだけを理由に、自己判断で中断、再開、残薬使用を行わないことが大切です。


注意したいこと


  • 抗菌薬はウイルス感染症には作用しません。かぜ症状だけで必要とは限りません。

  • 過去にペニシリン系、セフェム系などで発疹、呼吸困難、意識低下などがあった場合は、必ず医療者へ伝えます。

  • 下痢は比較的よくみられる症状ですが、強い下痢、血便、発熱を伴う場合は抗菌薬関連腸炎なども考慮します。

  • 腎機能や肝機能が低下している場合、選ぶ薬や使用方法の調整が必要になることがあります。

  • すべての抗菌薬で、対象となる菌種と感染症は製品ごとに異なります。電子添文の適応菌種・適応症を確認します。


参考情報


PMDA:医療用医薬品情報検索(電子添文・適応菌種・適応症・安全性情報)


厚生労働省:抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 医科・入院編


国立健康危機管理研究機構 AMR臨床リファレンスセンター:医療従事者向けガイドライン・資料