

ビスホスホネートは、破骨細胞による骨吸収を抑制する薬剤群です。骨粗鬆症に対する骨折予防のほか、悪性腫瘍の骨転移などに伴う骨病変にも使用されます。副作用を評価する際は、薬剤名だけでなく、適応疾患、投与量、投与間隔、経口・注射の別、これまでの累積投与期間を確認する必要があります。同じゾレドロン酸でも、骨粗鬆症に対する投与とがんの骨病変に対する投与では、治療体系とリスクの背景が異なります。
jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
臨床で押さえたい副作用は、経口薬で問題となる食道炎などの上部消化管障害、注射薬でみられる発熱・筋肉痛などの急性期反応、そして低カルシウム血症、腎障害、薬剤関連顎骨壊死、非定型骨折です。ただし、これらの頻度や注意事項をすべての製剤に一律に当てはめることはできません。処方・調剤・投与時には、使用する製品の電子添文を確認することが安全管理の出発点になります。
kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071673)
また、骨粗鬆症に用いる注射薬を、単に「注射だからがん治療と同じ高リスク」と説明するのは不適切です。顎骨壊死については、投与経路だけでなく高用量・低用量の区別が重要です。ポジションペーパー2023では、骨粗鬆症に用いる経口薬に加え、ゾレドロン酸やイバンドロン酸などの注射薬も低用量投与の区分に含めています。
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患者説明では、重篤な副作用名を並べるだけでなく、「予防のために何を確認するか」「どの症状があれば連絡するか」を具体化します。顎骨壊死への不安による自己中断を防ぐためにも、骨折予防の必要性と口腔管理の意義をあわせて伝え、医師・歯科医師・薬剤師が同じ方針を共有することが重要です。
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副作用の評価では、発症時期、直近の投与との時間関係、服用方法、併用薬、脱水や腎機能低下の有無を整理します。発熱や疼痛を薬剤性と即断せず、感染症や新たな骨折などの鑑別も必要です。以下は、経口アレンドロン酸と骨粗鬆症用ゾレドロン酸の電子添文情報、顎骨壊死のポジションペーパーに基づく実務上の整理です。
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| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 上部消化管障害 | 嚥下困難、嚥下時痛、胸骨後部痛、胸やけなどを確認する。 | 経口薬で注意。食道通過障害や服用後の臥位が問題となる。 |
| 急性期反応 | 注射後の発熱、筋肉痛、関節痛、頭痛、倦怠感などを確認する。 | ゾレドロン酸では注意すべき反応。強い症状や遷延時は他の原因も評価する。 |
| 低カルシウム血症 | しびれ、筋痙攣、テタニー、痙攣、意識状態の変化などに注意する。 | 特に高度腎機能障害患者では発現リスクが増加する。 |
| 腎障害 | 血清クレアチニンなどの検査値と、尿量減少、浮腫、倦怠感を確認する。 | ゾレドロン酸では脱水、利尿薬、腎毒性を有する薬剤の併用にも注意する。 |
| 薬剤関連顎骨壊死 | 顎の痛み、腫脹、排膿、骨露出、抜歯創の治癒遅延などを確認する。 | 歯周病や根尖病変などの感染、高用量投与、累積投与量が評価の鍵となる。 |
| 非定型骨折 | 外傷がない、または軽微な外力で生じる骨折。大腿部・鼠径部などの前駆痛に注意する。 | 長期使用例で注意。症状があれば画像検査などにつなげる。 |
| 眼の炎症 | 眼痛、充血、霧視などを確認する。 | ゾレドロン酸では虹彩炎やぶどう膜炎などが記載されている。 |
頻度の説明では、特定製剤の試験成績を薬剤群全体の数字として提示しないことが大切です。例えば、リクラストの副作用情報には発熱39.3%、関節痛10.8%と記載されていますが、これは経口薬を含むすべてのビスホスホネートに共通する発現頻度ではありません。患者には、使用製剤に即した情報として説明します。
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PMDA:リクラスト点滴静注液5mgの医療用医薬品情報
経口ビスホスホネートでは、上部消化管への局所刺激を避けるため、服用手順の確認が欠かせません。例えば、アレンドロン酸35mg錠は朝起床時に水約180mLで服用し、服用後少なくとも30分は横にならず、水以外の飲食と他の薬剤の経口摂取を避けます。さらに、その日の最初の食事を終えるまでは横にならないよう指導します。「30分過ぎれば食事前でも寝てよい」という説明にならないよう注意が必要です。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/14987294399153)
食道狭窄やアカラシアなど食道通過を遅延させる障害がある患者では、経口アレンドロン酸は禁忌です。服薬手順を守れない背景がある場合も、単に指導を繰り返すのではなく、嚥下機能、起床後の生活動作、介助の有無を確認し、製剤選択を処方医に相談します。服用後に嚥下時痛や胸骨後部痛などが出現した場合には、漫然と服用を続けさせず、食道障害を念頭に速やかな診察につなげます。
medley(https://medley.life/medicines/prescription/3999018F2036/doc/)
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/14987294399153)
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kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00052131)
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/04987294399514)
注射薬では食道への直接的な接触を避けられる一方、別の安全管理が必要です。ゾレドロン酸では発熱、筋肉痛、関節痛、倦怠感などが起こり得るため、投与前に予想される症状と連絡方法を説明します。特に発熱に下痢や嘔吐、食事・水分摂取の低下が重なる場合は、脱水と腎障害に注意し、単なる一過性の反応として放置しないことが重要です。
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発熱・疼痛への対症療法を検討する際も、腎機能と併用薬を確認します。リクラストでは、非ステロイド系消炎鎮痛薬など腎毒性を有する薬剤との併用により急性腎障害のリスクが増加するおそれがあります。患者に市販鎮痛薬の追加を一律に勧めるのではなく、あらかじめ処方医が対応薬と使用条件を定めておくことが望まれます。
kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071673)
PMDA:ボナロン錠35mgの添付文書
ビスホスホネートによる低カルシウム血症は、注射薬だけの問題ではありません。PMDAは2023年1月、国内医療情報データベースMID-NETを用いた調査を踏まえ、骨粗鬆症の効能を有するビスホスホネート系薬剤の使用上の注意を改訂しました。特に高度腎機能障害患者で低カルシウム血症の発現が増加する可能性があり、アレンドロン酸、ミノドロン酸、リセドロン酸の成分別解析でも同様の傾向が認められています。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000249792.pdf)
このため、年齢だけを根拠にリスクを判断せず、腎機能とカルシウム代謝を評価する必要があります。投与前には血清カルシウムと腎機能を確認し、低カルシウム血症があれば原因評価と是正を行います。ゾレドロン酸では、十分なカルシウム・ビタミンD摂取に関する説明も必要です。ただし、補充の内容は患者背景に応じて処方医が判断し、患者の自己判断による増量を前提にしない運用が適切です。
medical.nikkeibp.co(https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/39/3999423A5023.html)
骨粗鬆症用ゾレドロン酸のリクラストでは、クレアチニンクリアランス35mL/min未満の重度腎機能障害患者には投与しません。一方、低カルシウム血症のリスク情報にはeGFR 30mL/min/1.73m²未満という区分が記載されています。クレアチニンクリアランスと体表面積補正付きeGFRは同じ指標ではなく、「腎機能が30台だから使用できる」といった大まかな判断を避け、製剤ごとの基準を確認します。
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リクラストは1年に1回5mgを15分以上かけて点滴静脈内投与する製剤です。点滴時間が短いと急性腎障害の発現リスクが高くなるため、投与速度の遵守が必要です。また、利尿薬による体液量減少や、発熱・下痢・嘔吐に伴う脱水も評価し、投与前後の水分管理を行います。心不全などで水分管理に制約がある患者には、画一的な飲水指導ではなく個別の指示が必要です。
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投与後にしびれや筋痙攣が出現した場合には、低カルシウム血症を疑って評価します。痙攣、意識障害、重い筋症状などがあれば緊急の診療につなげます。また、尿量減少、浮腫、強い倦怠感は腎障害の手掛かりです。患者には「採血でしか分からない異常もある」ことと、「症状があれば予定受診日を待たず連絡する」ことを併せて伝えます。
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PMDA:腎機能障害患者における低カルシウム血症に関する使用上の注意の改訂
薬剤関連顎骨壊死は、ビスホスホネートの安全管理で重要な副作用です。ただし、発症頻度は投与量、対象患者、観察期間、診断方法によって異なります。ポジションペーパー2023が紹介するAAOMS 2022の臨床試験に基づく評価では、骨粗鬆症患者のビスホスホネート関連顎骨壊死の発症リスクは0.02~0.05%とされています。一方、国内の観察研究にはこれより高い報告もあり、この数字を全患者に共通する年間発症率として説明することはできません。
jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
予防では、投与開始前の歯科評価と、投与中の継続的な口腔管理が基本です。歯周病、根尖病変、顎骨骨髄炎などの感染は明確なリスク因子であり、不適合義歯による粘膜損傷にも注意します。歯がない患者でも義歯や残根などの評価が必要になるため、「無歯顎だから歯科受診は不要」とは判断できません。必要な歯科治療と骨疾患治療の緊急性を共有し、治療開始を不必要に遅らせない調整が重要です。
jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
抜歯時の対応では、従来の「一定期間休薬してから抜歯する」という説明を機械的に踏襲しないことが求められます。ポジションペーパー2023は、抜歯前休薬による顎骨壊死予防の利益を示すエビデンスがないことから、「原則として抜歯時に骨吸収抑制薬を休薬しないことを提案する」としています。ただし、あらゆる高リスク症例で短期間の休薬を否定できるほどの根拠もなく、適応疾患、骨折リスク、口腔感染、投与歴を踏まえた個別判断が必要です。
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ここで区別したいのが、抜歯に伴う予防的休薬と、長期治療の見直しとしての休薬です。両者は目的が異なります。長期のビスホスホネート投与では非定型大腿骨骨折のリスク上昇が知られており、同ポジションペーパーでは投与が3~5年に至った時点で脆弱性骨折のリスクを評価し、休薬や他剤への変更を検討できるとしています。これは、投与開始から一定年数が経過したら全例で中止するという意味ではありません。
jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
非定型骨折の早期発見では、定期受診時に大腿部や鼠径部の痛みを具体的に尋ねます。完全骨折の数週間から数か月前に前駆痛を認めることがあるため、「年齢による痛み」「いつもの腰痛」として片付けず、持続する痛みがあれば画像検査などにつなげます。ビスホスホネート使用中という情報を、診療科間で確実に共有することも必要です。
medley(https://medley.life/medicines/prescription/3999018F2036/doc/)
なお、デノスマブはビスホスホネートとは別の薬剤であり、休薬の考え方をそのまま流用できません。デノスマブでは中止や長期延期後の急速な骨密度低下と椎体骨折増加が問題となるため、薬剤名を確認せずに「骨粗鬆症の薬は抜歯前に止める」と指導しないことが重要です。安全な治療継続を支える鍵は、医歯薬連携によって投与歴、歯科所見、骨折リスク、次回投与予定を共有し、副作用への対応と原疾患治療を両立させることです。
jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
顎骨壊死検討委員会:薬剤関連顎骨壊死の病態と管理・ポジションペーパー2023

Rp.+(レシピプラス)2024年秋号 Vol.23 No.4 治療の「はじめる・つづける」を支える 骨粗鬆症とくすり: 治療の「はじめる・つづける」を支える