


一般に「パジェット病」と呼ばれる病態には、乳房の乳頭・乳輪部に生じる乳房外パジェット病や乳房パジェット病など複数の疾患概念があります。しかし、骨代謝疾患の文脈でいうパジェット病は、正式には骨パジェット病(Paget's disease of bone:PDB)を指します。本稿では骨パジェット病を対象に解説します。
骨パジェット病は、正常な骨リモデリングが局所的に著しく亢進・変調する慢性疾患です。通常、骨では破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が均衡し、微小損傷の修復と骨強度の維持が行われています。骨パジェット病では、まず骨吸収が過度に亢進し、その後に代償性の骨形成が過剰かつ無秩序に進行します。その結果、骨量が単に減少するのではなく、肥大して構造の乱れた骨が形成されます。形成された骨は血流が豊富である一方、層板構造が不規則で、機械的強度や荷重への耐性が低下し得ます。
病変は全身に均一に現れるのではなく、単骨性または多骨性に分布します。好発部位としては骨盤、大腿骨、腰椎・胸椎、頭蓋骨、脛骨などが知られています。高齢者に多く、地域差も大きい疾患です。日本では欧米と比べて比較的まれとされるため、原因不明の骨痛やALP上昇、特徴的な画像所見を見逃さない臨床姿勢が重要になります。
病因は完全には確定していません。家族内集積や特定の遺伝子変異との関連が示されており、遺伝的素因に環境要因が関与する多因子性疾患と考えられています。患者への説明では、「加齢に伴う単純な骨粗鬆症ではないこと」「感染症や悪性腫瘍と同一ではないこと」「局所的な骨代謝異常によって骨が弱くなり得ること」を、検査結果と併せて丁寧に伝える必要があります。
骨パジェット病は無症候のまま、他疾患の精査目的で実施された血液検査のALP高値、あるいは単純X線やCTで偶発的に発見されることがあります。一方、病変が活動性である場合や、荷重部位、頭蓋骨、脊椎などに生じた場合には、多彩な臨床症状・合併症を呈します。典型的な骨痛は持続性の鈍い痛みとして現れ、夜間にも持続することがあります。ただし、疼痛の原因が必ずしもパジェット病変そのものとは限らず、二次性変形性関節症、骨折、神経圧迫などを切り分ける必要があります。
骨の肥大・変形は、脛骨や大腿骨の弯曲、骨盤の変形、頭蓋骨の肥厚・拡大として認められることがあります。頭蓋骨病変では難聴、耳鳴り、頭痛が問題となり、脊椎病変では脊柱管狭窄や神経根圧迫に伴う疼痛、しびれ、筋力低下、歩行障害を来すことがあります。病変部の骨は血流増加により皮膚温上昇を伴うこともあります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 無症候例 | ALP上昇や画像異常を契機に偶発的に発見される | 症状がなくても病変部位と活動性の評価が必要 |
| 骨・関節症状 | 持続する骨痛、局所熱感、骨変形、二次性変形性関節症 | 疼痛源が病変自体か関節症かを評価する |
| 骨折・変形 | 荷重骨の弯曲、病的骨折、骨の肥大 | 大腿骨・脛骨・骨盤病変では荷重への影響に注意 |
| 神経学的症状 | 難聴、脳神経症状、神経根症、脊髄圧迫症状 | 頭蓋骨・脊椎病変では早期の専門的評価を検討する |
| まれな合併症 | 高拍出性心不全、骨肉腫などの悪性転化 | 広範囲・高度活動性病変や急な疼痛増悪に注意する |
悪性転化はまれですが、既知の病変部で急速に増悪する疼痛、腫脹、破壊性骨病変、軟部腫瘤を認める場合には、骨肉腫などを念頭に置いた迅速な画像評価と専門施設への紹介が必要です。また、広範な活動性病変では骨血流の増加が循環器系への負荷となる可能性があり、心不全を有する患者では背景疾患と合わせて評価します。
NHS:Paget's disease of boneの症状
骨パジェット病が疑われる契機には、原因不明の骨痛、骨変形、局所熱感、難聴などに加え、肝胆道系疾患では説明しにくいALP上昇があります。診断は、臨床所見、血液・尿検査、画像所見を統合して行います。特に総ALPは骨形成亢進を反映する実用的なスクリーニング指標ですが、肝由来ALPの影響を受けるため、肝機能検査と併せて解釈することが基本です。
総ALPが正常でも、単骨性あるいは病変範囲が限局した症例では骨代謝亢進を否定できません。臨床的・画像的な疑いが強い場合には、骨型ALP、PINP、CTX、NTXなどの骨代謝マーカーを補助的に検討します。また、ビスホスホネート治療前には、低カルシウム血症リスクを避けるため、血清カルシウム、リン、腎機能、25-hydroxyvitamin Dを確認し、必要に応じてビタミンD欠乏や二次性副甲状腺機能亢進症を補正します。
画像診断の第一歩は、症候部位または異常が疑われる部位の単純X線です。病期により、骨吸収優位の溶骨性変化、骨吸収と骨硬化が混在する混合性変化、骨硬化や骨肥大、皮質骨肥厚、骨梁粗大化、長管骨の弯曲などがみられます。典型像が得られれば診断の有力な根拠となります。
診断が支持された後には、99mTc標識製剤を用いる骨シンチグラフィで病変の分布と代謝活動性を全身的に把握します。骨シンチは病変範囲の評価に有用ですが、特異的検査ではありません。局所的な非典型所見、神経症状、悪性腫瘍や骨折が疑われる状況では、CTまたはMRIを追加し、必要に応じて整形外科、内分泌・代謝内科、放射線科などと連携します。
Endocrine Society:骨パジェット病の診断・治療ガイドライン
治療の目的は、骨代謝の過剰な回転を抑制し、パジェット病変に関連する骨痛を軽減すること、ならびに骨折、変形、二次性関節症、神経圧迫などの合併症リスクを下げることです。無症候で活動性が低く、重要臓器への影響や将来の合併症リスクが低い症例では、直ちに薬物治療を行わず、臨床症状、ALP、画像所見を定期的に観察する選択肢があります。
一方、病変由来と考えられる骨痛を有する場合、活動性の高い病変が頭蓋骨・脊椎・荷重部位などに存在する場合、骨手術を予定する場合、あるいは合併症リスクが高い場合には、治療適応を積極的に検討します。薬物療法の中心は骨吸収を抑制するビスホスホネート製剤です。ゾレドロン酸の静脈内投与は、強力かつ持続的に骨代謝回転を抑制し、骨痛改善に有効な選択肢として位置づけられています。
ゾレドロン酸を使用する際は、投与前に腎機能、補正カルシウム、ビタミンD状態を確認します。顕著な腎機能障害、低カルシウム血症、未補正のビタミンD欠乏では慎重な判断が必要です。投与後には発熱、筋肉痛、関節痛、倦怠感などの急性期反応が生じることがあり、患者には一過性の症状として説明したうえで、水分摂取や解熱鎮痛薬の使用を含めた対処を案内します。経口ビスホスホネートが選択される場合には、服薬姿勢、服用後の絶食時間、上部消化管症状にも配慮します。
疼痛の原因が二次性変形性関節症、骨折、神経圧迫、筋力低下にある場合、ビスホスホネートだけで十分な改善が得られないことがあります。アセトアミノフェンやNSAIDsなどによる鎮痛、理学療法、装具・杖・足底板の使用、転倒予防、整形外科的治療を組み合わせます。重度の関節破壊、変形、病的骨折、脊髄・神経圧迫では、手術が必要となることがあります。
治療後の評価では、「ALPを正常化すること」だけを単独目標にせず、骨痛、日常生活動作、歩行能力、神経症状、骨折・変形の有無、画像上の経過を統合して判断します。活動性病変に治療を行った場合、総ALPは治療反応の実用的な指標です。一般には治療後数か月の時点で変化を確認し、その後は病勢、治療薬、初期値、症状に応じて定期測定を継続します。総ALPが正常でも病変が限局する場合には、骨型ALPやPINPなどの利用を検討します。
患者説明では、骨パジェット病が「骨が増える病気」ではなく、「形は大きくなっても内部構造が不均一で、骨の質が損なわれ得る病気」であることを平易に伝えます。無症状例が存在するため過度な不安を与えない一方、持続する骨痛、急な痛みの悪化、骨の変形、しびれ・筋力低下、聴力変化、歩行障害などがあれば早めに受診すべきことを共有します。
また、骨の健康維持の観点から、カルシウムとビタミンDの不足を避けること、過度な安静を避けて個々の骨・関節状態に合う運動を行うこと、転倒を予防する住環境整備を説明します。ただし、変形や骨折リスクが高い患者に一律の高負荷運動を勧めることは適切ではありません。リハビリテーション、整形外科、歯科、耳鼻咽喉科、内分泌・代謝内科などとの多職種連携を通じ、病変部位と生活上の困りごとに応じた個別支援を行うことが重要です。
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