甲状腺眼症 重症度を見極める評価と対応

甲状腺眼症 重症度を見極める評価と対応

甲状腺眼症では、視機能を脅かす最重症例の見逃しを避けながら、活動性、重症度、QOLを独立して評価することが重要です。CAS、眼科所見、MRIをどう組み合わせ、適切な紹介・治療選択につなげるべきでしょうか?

甲状腺眼症 重症度の基礎知識と核心ガイド

重症度評価で変わる診療方針
重症度と活動性は別に判定する

重症度は視機能や生活障害の程度、活動性は炎症の勢いを示すため、CASだけで治療適応を決めないことが重要です。

最重症例は緊急対応を要する

甲状腺性視神経症や角膜潰瘍、穿孔、壊死は失明リスクを伴うため、速やかな専門施設への紹介と治療介入が必要です。

日本人ではMRIを評価に生かす

CASが低値でも眼窩内炎症が存在しうるため、特に日本人ではMRI所見を併用して活動性と病態を総合判断します。


甲状腺眼症における重症度評価の位置づけ


甲状腺眼症は、バセドウ病に代表される自己免疫性甲状腺疾患に関連して生じる眼窩組織の自己免疫性炎症性疾患である。眼瞼、涙腺、外眼筋、眼窩脂肪組織などが病変部位となり、眼瞼後退、眼瞼腫脹、結膜充血・浮腫、眼球突出、兎眼、複視、眼球運動障害、視力低下など、多彩な症候を呈する。橋本病に関連して発症する場合や、甲状腺機能が正常または低下している時点で眼症が明らかになる場合もあるため、「バセドウ病でなければ甲状腺眼症ではない」と判断しない姿勢が必要である。バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針2023(第3次案)
「甲状腺眼症 重症度」を評価する目的は、単に症状を点数化することではない。第一に、甲状腺性視神経症や角膜障害による失明リスクを速やかに検出すること、第二に、炎症を抑える治療を行うべき活動期か、残存する形態・機能障害に対して手術を検討する非活動期かを見極めること、第三に、患者の視機能と社会心理面のQOL低下を把握することである。したがって、日常診療では「重症度」「活動性」「進行性」「QOL」を同一概念として扱わず、それぞれを記録し、経時的に比較する。
重症度が軽く見えても、急速な視力低下、色覚異常、視野異常、角膜混濁、明らかな兎眼、急激な眼球突出などがあれば、視機能を脅かす病態を疑う。これらは甲状腺機能や甲状腺抗体の値だけから判断できず、眼科所見、眼圧、眼底、視機能検査、画像評価を含む多面的な評価が不可欠である。内分泌内科、眼形成・眼窩を扱う眼科、放射線科が連携する診療体制は、診断精度と治療時期の適正化に直結する。


軽症・中等症~重症・最重症の判定基準

国内の診療指針では、治療選択との関連から甲状腺眼症を「軽症」「中等症~重症」「最重症」の3段階に整理する。EUGOGOの国際的な分類でも、軽症、中等症~重症、視機能を脅かす重症例という枠組みが採用されている。大切なのは、眼球突出のみで重症度を決めないことである。眼瞼後退、軟部組織炎症、複視の性状、角膜所見、視神経症の有無、日常生活への影響を統合して判断する。国内の基準における眼球突出度の数値は日本人の臨床特性を踏まえたものであり、単純に海外の絶対値を当てはめない注意が必要である。甲状腺眼症診療の手引き Digest版

区分 基準・内容 備考
軽症 日常生活への障害がわずかで、治療リスクが期待利益を上回ると判断される状態。眼瞼後退は2mm未満、軽度軟部組織所見、眼球突出は15mm以上18mm未満が目安となる。 経過観察に加え、眼表面治療、禁煙、甲状腺機能安定化、MRIを含む病態評価を検討する。
中等症~重症 失明リスクはないが、視機能障害または外見・眼症状によりQOLが低下し、治療を考慮する状態。2mm以上の眼瞼後退、中等度以上の軟部組織所見、18mm以上の眼球突出、恒常的な複視などが指標となる。 活動期なら免疫抑制療法等、非活動期なら機能回復手術を中心に検討する。
最重症 甲状腺性視神経症、または角膜潰瘍、角膜穿孔、角膜壊死を伴い、失明の危険がある状態。 緊急の専門的治療を要する。視力・色覚・瞳孔所見・眼底・角膜所見を迅速に評価する。

中等症~重症の判断では、患者が「見えにくさは我慢できる」と表現していても、第一眼位における複視、読書・運転・PC作業への支障、代償性頭位、顔貌変化による対人回避などを具体的に聴取する。視機能の障害と整容上・社会心理面の障害は、いずれも治療適応を考える重要な要素である。EUGOGO分類では、軽症と中等症~重症を分ける際、眼瞼後退2mm以上、中等度から高度の軟部組織病変、人種・性別の正常値より3mm以上の眼球突出、不定または恒常的な複視のうち複数所見を重視している。EUGOGO 2021 Clinical Practice Guidelines


活動性評価CASとMRIをどう使い分けるか

甲状腺眼症の重症度と並んで、治療選択に強く関わるのが活動性である。活動性とは、眼窩組織における炎症が現在どの程度進行しているかを示す概念であり、炎症を標的とする免疫抑制療法への反応性を考える際の重要な指標となる。一方で、活動性が高いことと、必ずしも重症度が高いことは同義ではない。軽症でも活動性が高い例があり、逆に高度の眼球突出や複視があっても、炎症が終息して線維化が主体となった非活動期であることがある。
Clinical Activity Score(CAS)は、眼症の活動性を評価する代表的なスコアである。初診時には、眼窩部の自発痛または違和感、上方視・下方視時の疼痛、眼瞼発赤、眼瞼腫脹、結膜充血、結膜浮腫、涙丘または半月ひだの発赤・腫脹の7項目を各1点で評価する。CASが3点以上で活動性眼症を示唆する。経過観察時には、1~3か月間の2mm以上の眼球突出進行、8度以上の眼球運動低下、視力低下を加えた10項目評価が、進行性の把握に有用である。EUGOGOにおけるCASと重症度分類

  • CASは炎症の有無・勢いをみる指標であり、眼球突出や複視による機能障害の全体像を単独では表せない。
  • CASが3点未満でも、視機能障害、急速な病状変化、画像上の炎症、患者の強いQOL低下があれば専門評価を省略しない。
  • 日本人ではCASが1~2点でもMRIで外眼筋や眼窩内軟部組織の炎症所見を認める例があるため、CAS低値のみで非活動期と断定しない。
  • 眼窩MRIでは、T1強調画像で眼球突出度、外眼筋腫大、眼窩脂肪増生などを評価し、T2強調画像またはSTIR画像で外眼筋の炎症性変化を評価する。
  • 片眼性または著明な左右差を伴う眼球突出では、甲状腺眼症以外の眼窩疾患を除外する目的でも画像診断が重要となる。

MRIは、外眼筋の腫大や眼窩脂肪組織の増生といった形態評価に加え、T2緩和時間延長やSTIR信号強度比などを通じて活動性の参考情報を提供する。ただし、撮像法、解析法、カットオフ値は施設間で一律ではない。したがって、MRI所見を単独の治療決定因子とするのではなく、CAS、視力、色覚、眼球運動、複視、角膜所見、病勢の変化、QOLと統合して解釈する。特に外眼筋の不均一な信号変化や慢性的な運動制限では、線維化が主体となっている可能性も考慮する。


最重症を見逃さない紹介基準と緊急所見

最重症の甲状腺眼症では、甲状腺性視神経症(dysthyroid optic neuropathy:DON)と重度の角膜障害が中心的な問題となる。DONは、腫大した外眼筋や眼窩内容の増加による眼窩尖端部の圧迫、あるいは眼窩内圧上昇などを背景に視神経機能が障害される病態である。眼球突出が著明でない場合にも起こりうるため、「突出が少ないから安全」とは判断できない。視力低下のみならず、色覚低下、視野異常、相対的求心性瞳孔障害、眼底の視神経乳頭所見、中心フリッカー値低下などを組み合わせて評価する。
急激な視力低下、色覚異常、視野障害、急速な眼球突出、角膜混濁、閉瞼しても角膜が露出する兎眼、視神経乳頭浮腫は、至急の眼科専門医紹介を要する所見である。眼瞼が閉じにくく乾燥感が強い程度に見えても、角膜上皮障害が進行すれば潰瘍や穿孔につながりうる。診察時には、視力だけでなく角膜染色、眼瞼閉鎖、Bell現象、眼球位置、瞬目、露出角膜の範囲を確認する。
最重症例では、眼症に対する治療が優先される。国内指針では速やかなステロイド・パルス療法を開始し、頻回に視機能を評価しながら、反応不良時には眼窩減圧術を検討する方針が示されている。EUGOGO 2021ガイドラインでも、視神経症に対して高用量静注メチルプレドニゾロンを直ちに開始し、1~2週間以内に反応が不十分なら緊急眼窩減圧術を行うことを推奨している。静注ステロイド治療は肝障害、心血管系有害事象、糖代謝異常、感染症などのリスクを伴うため、経験のある専門施設で治療前評価と治療中モニタリングを行う必要がある。視機能を脅かす甲状腺眼症へのEUGOGO推奨


重症度別の治療選択と長期フォロー

甲状腺眼症の治療戦略は、重症度、活動性、罹病期間、進行速度、甲状腺機能、喫煙、TRAbまたはTSAb、併存疾患、患者が重視するQOLを踏まえて決める。全例に共通する管理として、禁煙支援と甲状腺機能の安定化が重要である。喫煙は甲状腺眼症の発症・重症化と関連し、放射性ヨウ素内用療法後の悪化リスク、免疫抑制療法への反応低下にも関係するため、単なる生活指導ではなく治療効果を左右する介入として位置づける。甲状腺眼症と喫煙に関する国内手引き
軽症例では、人工涙液、眼軟膏、夜間の角膜保護などの局所対策、禁煙、甲状腺機能の正常化を基本とし、症状・所見・MRI所見に応じて経過を追う。軽症であっても複視、眼瞼後退、角膜露出、外見の変化が職業や対人関係に強い影響を与えている場合には、QOL評価を行い、専門施設への紹介や追加治療の必要性を再検討する。軽症という分類は「患者への影響が軽い」という意味であり、単に診察所見が軽度という意味ではない。
中等症~重症例では、活動期であればステロイドを中心とする免疫抑制療法、必要に応じた眼窩部放射線治療、難治例での追加薬剤・局所治療などを専門施設で検討する。非活動期で眼球突出、複視、眼瞼後退が残存して視機能やQOLを損なう場合は、眼窩減圧術、斜視手術、眼瞼手術などの機能回復手術が選択肢となる。手術は一般に、眼窩減圧術、外眼筋手術、眼瞼手術の順に計画されることが多く、術式と順序は病態・症状に応じて個別化する。
経過中は、初診時の重症度分類だけで固定的に扱わない。CAS、眼瞼所見、眼球突出度、複視の頻度と第一眼位への影響、眼球運動、視力、色覚、角膜所見、MRI、GO-QOLなどを同じ尺度で記録し、改善・不変・悪化を追跡する。ステロイド・パルス療法後は、少なくとも1か月、3か月、6か月、1年といった時点で客観所見と患者報告アウトカムを再評価することが望ましい。甲状腺眼症の重症度評価は一回の判定で完結する作業ではなく、失明予防、炎症制御、機能回復、社会復帰をつなぐ継続的な臨床プロセスである。




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