

心アミロイドーシスは、異常に折りたたまれた蛋白質から構成されるアミロイド線維が心筋間質へ沈着し、心筋の硬化、拡張障害、伝導障害および不整脈を引き起こす浸潤性心筋症である。進行すると、心室は十分に拡張できなくなり、拍出量の維持が難しくなる。臨床的には、原因不明の心不全、左室壁肥厚、心房細動、房室ブロック、徐脈性不整脈などとして遭遇することが多い。
主要な病型は、免疫グロブリン軽鎖を原因蛋白とするALアミロイドーシスと、トランスサイレチンを原因蛋白とするATTRアミロイドーシスである。ATTRアミロイドーシスには遺伝子変異を有する遺伝性ATTRアミロイドーシス(ATTRv)と、明らかな遺伝子変異を伴わない野生型ATTRアミロイドーシス(ATTRwt)がある。病型ごとに臓器障害の分布、進行速度、治療選択肢が異なるため、「心アミロイドーシスらしい」と判断することだけでなく、早期に病型同定へ進むことが重要となる。心アミロイドーシスでは一般に心肥大と拡張障害が主体となり、収縮障害、房室伝導障害、心房細動、致死性不整脈などを伴いうる。
hattramyloidosis(https://www.hattramyloidosis.jp/guideline/JCS2020)
臨床現場で注意すべき点は、症状の多くが高齢者の心不全、心房細動、高血圧性心疾患、肥大型心筋症、弁膜症、腎機能低下などに重なって見えることである。そのため、単一の症状だけで診断へ直結させるのではなく、心臓所見、心電図、心エコー、既往歴、整形外科的疾患、神経症状および自律神経症状を統合して評価する必要がある。
2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン
心アミロイドーシス症状の中心は、うっ血性心不全に関連する息切れ、労作時呼吸困難、起坐呼吸、易疲労感、下腿浮腫、体重増加、頸静脈怒張、肝うっ血および腹水である。とくに右心不全徴候としての末梢うっ血が前景に出ることがあり、浮腫や腹部膨満を主訴とする患者では、呼吸器症状の強さだけで心不全の重症度を判断しないことが重要である。心アミロイドーシスでは、心筋の硬さによる拡張障害が比較的早期から進行し、左室駆出率が保たれていても症候性心不全を呈しうる。
不整脈・伝導障害も重要な症状群である。アミロイド沈着は心筋だけでなく刺激伝導系にも影響し、洞不全症候群、房室ブロック、脚ブロック、心房細動、心房粗動などにつながる。患者が訴える動悸、脈の不規則感、めまい、失神前症状、失神、労作時の急な疲労感は、うっ血のみで説明せず、徐脈性不整脈や頻脈性不整脈を評価する契機とする。心アミロイドーシスでは失神または失神前症状が生じることがあり、伝導系への沈着による障害が関与しうる。
escardio(https://www.escardio.org/communities/councils/cardiology-practice/scientific-documents-and-publications/ejournal/volume-19/cardiac-amyloidosis-epidemiology-diagnosis-and-therapy/)
また、低血圧、血圧変動、利尿薬や血管拡張薬の導入後に目立つ血行動態悪化にも注意する。心アミロイドーシスでは一回拍出量を増やしにくく、心拍数依存で心拍出量を維持している例がある。一般的な心不全治療を機械的に適用するのではなく、循環血漿量、腎機能、血圧、心拍数、うっ血の程度を個別に再評価する姿勢が求められる。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 左心不全症状 | 労作時息切れ、呼吸困難、起坐呼吸、易疲労感 | HFpEFとして経過観察されている例でも再評価する |
| 右心不全症状 | 下腿浮腫、頸静脈怒張、肝うっ血、腹水、体重増加 | 肺うっ血が目立たなくても末梢うっ血が進行しうる |
| 不整脈関連症状 | 動悸、めまい、失神前症状、失神、脈の乱れ | 心房細動、洞不全、房室ブロックなどを想定する |
| 血行動態異常 | 低血圧、起立時のふらつき、薬剤導入後の血圧低下 | 自律神経障害と低拍出の両面から評価する |
循環器用語ハンドブックでは、心アミロイドーシスの症状として左心不全症状、右心不全症状、低血圧、立ちくらみが挙げられ、身体所見としてⅢ音・Ⅳ音を聴取する場合があるとされている。
med.toaeiyo.co(https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/disease/3-34.html)
心アミロイドーシスを疑う際、心臓以外の症状や既往は診断精度を大きく左右する。とくにATTR型では、心不全が明瞭になる前に整形外科的または神経学的な症状が先行することがある。代表的なものが手根管症候群であり、両側性、再発性、手術歴がある場合、あるいは高齢男性で原因不明の心肥大・心不全に合併する場合は、ATTR心アミロイドーシスを鑑別に置く価値がある。
手根管症候群では、正中神経領域を中心とする手指のしびれや痛み、つまみ動作の困難、夜間のしびれ増悪などがみられる。野生型ATTRアミロイドーシスでは、手根管症候群に加えて脊柱管狭窄症、腱・靱帯の病変、上腕二頭筋腱断裂などの整形外科的病歴が手掛かりになることがある。ただし、これらの疾患は高齢者に一般的であるため、所見単独で確定的に扱うのではなく、心臓所見との組み合わせで意味づける。
ATTRvでは、末梢神経障害、自律神経障害、消化器症状、腎症状、眼症状など多様な臓器症状を伴いうる。しびれ、異常感覚、疼痛、筋力低下、歩行の不安定さ、起立性低血圧、発汗異常、下痢と便秘の反復、食欲低下、体重減少などを問診で確認する。ATTRvではポリニューロパチー、自律神経症状・消化器症状、手根管症候群、心症状、腎症状、眼症状など、多臓器にわたる症状がみられる。
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ALアミロイドーシスでは、心障害に腎障害、蛋白尿、ネフローゼ症候群、末梢神経障害、消化器症状、肝腫大、出血傾向などが組み合わさることがある。眼瞼周囲紫斑や舌腫大は古典的所見として知られるが、出現しない症例も多い。したがって、典型所見の有無だけでAL型を除外せず、心アミロイドーシスが疑われる段階で単クローン性免疫グロブリンの評価を計画する。
心アミロイドーシスを疑う契機は、「高齢者の心不全」や「壁肥厚」そのものではなく、病歴・症状・身体所見と検査の不一致または特徴的な組み合わせである。例えば、心エコーで左室壁肥厚があるにもかかわらず、心電図で左室肥大に見合わない低電位を示す場合、あるいは伝導障害や心房細動が比較的早期から認められる場合は、浸潤性心筋症として心アミロイドーシスを考慮する。心電図では低電位、徐脈、伝導障害がみられることがあり、心エコーでは求心性心肥大、拡張能低下などが確認される。
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心エコーでは左室壁肥厚、両心房拡大、拡張機能障害、心房機能低下、弁の肥厚、心房中隔肥厚、少量の心嚢液などが参考になる。スペックルトラッキング法による左室長軸方向ストレインで、心尖部のストレインが比較的保たれるapical sparingパターンは有用な手掛かりとなる。ただし、単独で確定診断する検査ではなく、臨床像や他の画像検査と統合して扱う。
心臓MRIでは、遅延造影やT1 mapping、細胞外容積分画などから心筋間質の異常を評価できる。さらに、ATTR型が疑われる場合には骨シンチグラフィを活用する。一方で、骨シンチグラフィ陽性のみでATTR型と断定してはならず、ALアミロイドーシスを血清・尿免疫固定法および血清遊離軽鎖測定で適切に除外する必要がある。モノクローナル蛋白が検出される場合や画像所見が非典型的な場合には、組織生検とアミロイド蛋白のタイピングを検討する。
| 検査 | 心アミロイドーシスを示唆する所見 | 実施時の要点 |
|---|---|---|
| 12誘導心電図 | 低電位、疑似梗塞パターン、房室ブロック、脚ブロック、心房細動 | 壁肥厚に対してQRS電位が低い不一致に注目する |
| 心エコー | 壁肥厚、拡張障害、両心房拡大、心房中隔肥厚、apical sparing | 駆出率が保たれていても除外しない |
| 血液・尿検査 | 血清遊離軽鎖異常、免疫固定法でのモノクローナル蛋白 | AL型の見逃しを防ぐために重要である |
| 心臓MRI | 心筋のびまん性間質異常、遅延造影、T1・細胞外容積の異常 | 浸潤性病変の評価と鑑別に用いる |
| 骨シンチグラフィ | ATTR型を示唆する心筋集積 | AL型除外とSPECTを含む適切な読影が必要である |
| 生検・蛋白タイピング | アミロイド沈着の証明と原因蛋白の同定 | 病型確定が治療方針を決める |
診断ではアミロイド沈着の証明だけでなく、その沈着による臓器障害を示す臨床所見の確認が重要とされる。すなわち、症状、身体所見、心臓画像、バイオマーカー、病理および原因蛋白の同定を相互に結び付けることが、過剰診断と見逃しの双方を減らす。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2020_Kitaoka.pdf)
日本アミロイドーシス学会 アミロイドーシス診療ガイドライン
心アミロイドーシスは、発見時点の心不全治療だけで完結する疾患ではない。AL型では形質細胞異常に対する血液内科的治療が治療成績に直結するため、迅速な病型診断と血液内科への連携が必要である。AL型は比較的急速に心障害が進行することがあり、心不全症状、心筋障害マーカー上昇、腎障害、蛋白尿、単クローン性免疫グロブリンの存在などを認めた場合は、診断プロセスを遅らせない。
ATTR型では、トランスサイレチンを標的とする疾患修飾療法の適応評価が重要となる。ATTRvが判明した場合は、遺伝学的検査の結果を患者・家族に伝える際の心理社会的配慮、遺伝カウンセリング、家族歴の再確認を含めた多職種連携が必要である。遺伝子検査は、疾患の説明、家族への影響、保険・就労・心理面などにも関係しうるため、検査前後に十分な説明を行う。
心不全管理では、うっ血を改善するための利尿薬が中心的な役割を担う一方、過度の利尿は腎機能悪化や低血圧、低拍出を招きうる。β遮断薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、カルシウム拮抗薬、ジゴキシンなどは、患者の血行動態や併存する伝導障害に応じて慎重に使用する。一般的な心不全治療の用量目標を一律に追うのではなく、症状、血圧、体重、腎機能、電解質、BNPまたはNT-proBNP、心拍数および不整脈の有無を継続的に確認する。
医療従事者にとって実践的な診療姿勢は、「高齢だから」「HFpEFだから」「高血圧歴があるから」と早期に説明を完結させないことである。原因不明または経過に比して強い壁肥厚、反復する心不全入院、伝導障害、心房細動、両側手根管症候群、脊柱管狭窄症、末梢神経障害、自律神経症状が重なる場合は、心アミロイドーシスを鑑別に加える。早期認識により適切な病型診断と専門施設への紹介につながり、疾患修飾療法や臓器障害管理を検討できる可能性が広がる。
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