

漢方薬・生薬製剤は、複数の生薬を一定の組み合わせで配合した処方、または生薬そのものを用いる医療用医薬品です。かぜ様症状、胃腸症状、痛み、冷え、更年期に伴う不調など、複数の訴えが重なりやすい場面で治療の選択肢になります。ただし「幅広い症状に使える」ことは、どの症状にも自己判断で使えるという意味ではありません。医療用では、製品ごとの電子添文に定められた効能・効果、患者の状態、併用薬を踏まえて医師が選択します。
西洋医学では病名や検査値を中心に治療を組み立てますが、漢方医学では、病気の経過、体力、冷え・ほてり、発汗、胃腸の状態、痛み方などを総合して捉える「証(しょう)」を参考にします。同じ頭痛、腹痛、咳、不眠でも、体力や随伴症状が異なれば候補となる処方は変わります。したがって、処方名だけから用途を固定せず、症状の背景に感染症、臓器疾患、薬剤性の問題などがないかを医学的に評価することが重要です。
| 種類 | 成分の例 | 用途と役割 |
|---|---|---|
| 葛根湯 | 葛根湯エキス | 感冒、鼻かぜ、肩こり、筋肉痛などに用いる処方。比較的体力がある人の、発熱や汗が少ない初期のかぜ症状などを目安に選択されます。 |
| 小青竜湯 | 小青竜湯エキス | 水様性の鼻水、鼻炎、気管支炎、気管支ぜんそくなどに用いる処方。冷えや水様の分泌物といった状態を考慮します。 |
| 補中益気湯 | 補中益気湯エキス | 虚弱体質、疲労倦怠、食欲不振、病後・術後の衰弱などで用いられる処方です。 |
| 五苓散 | 五苓散エキス | 浮腫、口渇、尿量減少、下痢、悪心・嘔吐、頭痛などを伴う状態に用いることがある処方です。 |
| 当帰芍薬散 | 当帰芍薬散エキス | 月経異常、月経痛、更年期障害、冷え症、貧血傾向などで用いられる処方です。 |
| 抑肝散 | 抑肝散エキス | 神経症、不眠症、小児夜泣きなどの効能・効果を持つ処方です。高齢者の行動・心理症状などでは、適応や根拠を個別に確認します。 |
漢方製剤は、単一成分を高純度で投与する薬とは異なり、多数の成分を含む生薬を組み合わせます。そのため、作用を一つの成分だけで説明しきれないことがあります。たとえば、発汗や筋肉のこわばり、胃腸の働き、炎症に伴う不調など、複数の身体反応に関係することがありますが、処方ごとに承認された用途は異なります。
「漢方薬だから自然で安全」「生薬なので副作用はない」という理解は正確ではありません。医療用漢方製剤でも、アレルギー症状、消化器症状、肝機能障害、間質性肺炎、偽アルドステロン症などが問題となり得ます。含有生薬によって注意点も異なり、甘草を含む製剤では低カリウム血症、血圧上昇、むくみ、脱力などにつながる偽アルドステロン症に注意が必要です。
医療用漢方は、エキス顆粒、細粒、錠剤、散剤などが中心です。飲みやすさだけでなく、服薬できる量、嚥下機能、ほかの内服薬との関係、治療を続けられるかを考慮して剤形が選ばれます。製剤が異なると、使用される生薬、抽出物の規格、添加物、承認された効能・効果が同一とは限りません。類似した処方名であっても、製品の電子添文を確認する必要があります。
使い分けでは、症状の名称だけではなく、急性か慢性か、熱感や冷えの有無、汗、口渇、便通、食欲、体力、妊娠・授乳の状況、肝臓・腎臓・心臓の病気、併用薬などを確認します。症状が急に強くなった場合、息苦しさ、強い腹痛、意識の変化、血便・黒色便、高熱の持続などがある場合は、漢方薬で様子を見るのではなく速やかな医療評価が必要です。
漢方薬は、診断と生活背景を含めて治療を組み立てる医療の一部です。効能・効果は製品ごとに異なり、同じ処方名でもすべての不調を対象にするものではありません。電子添文に基づき、医師・薬剤師と相談して安全に使用することが大切です。
日本漢方生薬製剤協会「医療用漢方製剤 2026―148処方の添付文書情報―」