

皮膚筋炎は、特発性炎症性筋疾患に分類される全身性自己免疫疾患である。特徴的な皮膚症状に、骨格筋の炎症に伴う対称性の近位筋力低下、筋逸脱酵素上昇、筋電図異常、筋病理異常などを組み合わせて診断する。日常診療では、椅子から立ち上がりにくい、階段を上がりにくい、髪を洗う際に腕を上げ続けられない、頸部を持ち上げにくいといった訴えが、近位筋優位の筋障害を示唆する。
ただし、皮膚筋炎は「典型的皮疹と筋炎がそろう疾患」に限られない。皮膚所見が先行する例、筋症状が軽い例、筋力低下をほとんど認めない臨床的無筋症性皮膚筋炎、筋酵素が正常範囲にとどまる例もある。そのため、CKのみをスクリーニング検査として用い、「CKが正常だから皮膚筋炎ではない」と結論づけることは危険である。特に抗MDA5抗体関連例では、筋症状が乏しい一方で急速進行性間質性肺疾患が問題になる場合があり、皮膚所見と呼吸器症状の確認を起点に全身評価を進める必要がある。筋炎関連自己抗体は病型、病態、治療反応性と関連することが知られている。
参考)https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/imed3/disease/d-immu04-3.html
診断基準は、診療上の診断を機械的に代替するものではなく、共通した言語で症候・検査所見を整理するための枠組みである。診断時には、皮膚科、膠原病・リウマチ内科、神経内科、呼吸器内科、病理部門などが連携し、筋症状、皮膚症状、肺病変、嚥下障害、心病変、悪性腫瘍リスクを横断的に確認する姿勢が求められる。
日本皮膚科学会 一般公開ガイドライン
皮膚筋炎の評価では、歴史的には1975年のBohan・Peter基準が広く参照されてきた。同基準は、対称性の近位筋力低下、血清筋原性酵素の上昇、筋原性変化を示す筋電図、定型的な筋病理所見、定型的皮膚症状という5項目で構成される。皮膚筋炎では、定型的皮膚症状を含んだうえで、陽性項目数により確実例、疑い例、可能性例を整理する。
参考)多発性筋炎・皮膚筋炎(polymyositis / derm…
一方、日本では厚生労働省研究班による多発性筋炎・皮膚筋炎診断基準が実地診療で重要な位置を占める。成人発症の皮膚筋炎では、ヘリオトロープ疹、ゴットロン丘疹、ゴットロン徴候のうち1項目以上を満たし、さらに近位筋力低下、筋痛、CKまたはアルドラーゼ上昇、筋電図変化、非破壊性関節炎・関節痛、全身性炎症所見、筋炎特異的自己抗体、筋生検の筋炎所見などから4項目以上を満たすことが診断枠組みとして示されている。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2017/172051/201711059A_upload/201711059A0004.pdf
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 特徴的皮疹 | ヘリオトロープ疹、ゴットロン丘疹、ゴットロン徴候 | 皮膚筋炎の診断上、特に重要な臨床所見 |
| 筋症状 | 上肢または下肢の近位筋力低下、筋自発痛または把握痛 | 筋力低下の分布、進行速度、日常生活への影響を記録する |
| 血液検査 | CKまたはアルドラーゼ上昇、筋炎特異的自己抗体陽性 | CK正常例や抗体陰性例もあり、陰性所見だけで除外しない |
| 補助検査 | 筋電図での筋原性変化、筋生検での筋炎所見 | 薬剤性、神経原性、遺伝性筋疾患などとの鑑別にも活用する |
| 全身症状 | 非破壊性関節炎・関節痛、発熱、CRP上昇、赤沈亢進 | 疾患活動性と合併症の把握に用いる |
このように国内基準は、皮膚・筋・検査・全身炎症・自己抗体・病理所見を多面的に扱う。診断基準の項目を単なるチェックリストにせず、発症年齢、臨床経過、抗体プロファイル、合併臓器障害を重ねて解釈することが、適切な病型分類とリスク層別化につながる。
初診時には、まず視診で皮膚所見を系統的に確認する。ヘリオトロープ疹は眼瞼部の紫紅色調を伴う浮腫性紅斑であり、ゴットロン丘疹は手指関節背側の丘疹、ゴットロン徴候は手指関節背側や四肢関節伸側の紅斑として認識される。さらに、V徴候、ショール徴候、ホルスター徴候、爪郭部毛細血管異常、頭部の掻痒性紅斑、mechanic’s handsなども、診断と病型推定に役立つ皮膚所見である。
筋評価では、徒手筋力テストだけでなく、椅子立ち上がり、スクワット、上肢挙上保持、頸部屈曲など、患者の生活上の困難と結びついた機能評価が有用である。血液検査はCK、アルドラーゼ、AST、ALT、LDHを確認するが、AST・ALT上昇を肝障害だけと解釈しない注意が必要である。筋由来の酵素逸脱である可能性を、CK、アルドラーゼ、臨床症状とともに判断する。
なお、2017年のEULAR/ACR分類基準は、年齢、筋力低下のパターン、皮膚所見、嚥下障害、検査所見、筋生検所見などを点数化し、特発性炎症性筋疾患である確率を算出する国際的な分類枠組みである。筋力低下のない皮膚筋炎が疑われる場合には、皮膚生検が推奨されるとされる。分類基準と診断基準は目的が完全に同一ではないため、研究登録や症例比較には前者、個別患者の診断には臨床的総合判断を組み合わせる。
参考)https://portal.mdd.systems/document/images/pmdm.pdf
無筋症性であっても「筋炎がないため軽症」とは限らない。とりわけ抗MDA5抗体陽性例では、急速進行性間質性肺疾患を念頭に置く。問診では乾性咳嗽、労作時呼吸困難、発熱を確認し、胸部高分解能CT、酸素化評価、フェリチンなどを、臨床状況に応じて迅速に評価する。呼吸器症状が乏しくても画像上の肺病変が先行することがあるため、皮膚所見と抗体結果だけで経過観察にとどめるのではなく、肺評価の必要性を判断する。
また、皮膚筋炎は悪性腫瘍との関連が臨床上重要である。特に高齢発症、急激な皮膚症状・筋症状の出現、治療抵抗性、抗TIF1-γ抗体陽性などでは、年齢・性別・臓器別リスク・既往歴を踏まえた悪性腫瘍スクリーニングを検討する。検査内容や反復頻度は一律ではなく、症候、抗体、発症時期、初回スクリーニング結果、被曝や侵襲性を総合して決めるべきである。悪性腫瘍検索は診断時だけの一回限りではなく、特に発症前後の一定期間にわたり臨床経過に応じて見直す。
皮膚筋炎を疑ったときは、ステロイドミオパチー、甲状腺機能異常、薬剤性筋障害、スタチン関連筋障害、感染症、代謝性筋疾患、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症などを、病歴、神経学的所見、検査、画像、病理所見から区別する。筋痛・筋力低下とCK上昇があれば皮膚筋炎と短絡せず、薬剤開始時期、運動負荷、飲酒、感染歴、家族歴、内分泌異常、神経学的局在所見を確認する。
皮膚症状についても、全身性エリテマトーデス、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、乾癬、扁平苔癬、光線過敏症を伴う疾患などが鑑別となる。ゴットロン丘疹・徴候やヘリオトロープ疹の形態、分布、持続性、爪郭所見、筋症状、自己抗体、皮膚病理所見を総合し、皮膚症状だけを孤立して解釈しないことが重要である。
診断後の診療録には、皮膚症状の部位・性状・写真記録、徒手筋力と機能障害、CK・アルドラーゼなどの推移、自己抗体、胸部CTを含む臓器評価、嚥下・心症状、悪性腫瘍検索の内容を時系列で残すとよい。皮膚筋炎は同じ診断名でも、筋優位、皮膚優位、肺病変優位、悪性腫瘍関連が疑われる病型など、臨床課題が大きく異なる。診断基準への適合確認を出発点として、患者ごとの病型、活動性、重症臓器障害、治療緊急度を明確に記録し、多職種・多診療科で共有することが実践的な診療につながる。