廃用症候群を早期に見抜き介入する実践ガイド

廃用症候群を早期に見抜き介入する実践ガイド

廃用症候群は、急性疾患や治療に伴う安静、不活動によって二次的に全身機能と生活機能が低下する状態です。病態、評価、予防、多職種連携、診療報酬上の留意点を整理し、患者の活動と生活をどう守るべきでしょうか?

廃用症候群の基礎知識と核心ガイド

廃用を防ぐ早期介入の要点
不活動が全身機能を低下させる

臥床や活動制限が続くと、筋骨格系だけでなく循環、呼吸、摂食、認知・心理面まで連鎖的に低下する。

評価は生活機能を起点に行う

疾患名だけで判断せず、移乗、歩行、セルフケア、嚥下、排泄、社会参加の変化を多職種で継続評価する。

離床を生活行為へつなげる

単に座らせるだけで終わらせず、食事、整容、排泄、移動など意味ある活動を段階的に再獲得することが重要となる。

廃用症候群とは何か:疾患そのものと区別する


廃用症候群とは、病気や外傷による一次的な障害そのものではなく、安静、臥床、活動量の低下、不動、社会参加の減少などが継続することによって生じる二次的な心身機能低下の総称です。「使わないこと」による機能低下であり、身体面だけではなく、認知機能、意欲、睡眠、対人交流、生活の役割にも影響が及びます。高齢者、フレイルやサルコペニアを有する人、複数の慢性疾患を抱える人では、とくに短期間の不活動でも生活機能が大きく変化し得ます。
重要なのは、廃用症候群を「安静が長引いた結果として仕方なく起こるもの」と扱わないことです。肺炎、心不全、骨折、脳血管障害、術後、がん治療、感染症、疼痛、せん妄、低栄養など、活動を妨げる契機は多岐にわたります。一方で、原疾患が改善傾向にあっても、離床・移動・食事・排泄といった生活行為が回復していなければ、退院後の再入院、介護負担の増加、生活範囲の狭小化につながるおそれがあります。
厚生労働省の資料では、廃用症候群は「使わないこと、生活の不活発、安静」によって起こる全身の心身機能低下として示され、機能低下が活動低下を招き、さらに廃用を進行させる悪循環が課題とされています。臨床では、安静の医学的必要性を日々再評価し、「禁止されていること」ではなく「安全に実施できる活動」を明確にする視点が欠かせません。


参考)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001229688.pdf
厚生労働省:高齢者のリハビリテーションに関する資料

見逃してはならない症状と評価の視点

廃用症候群の徴候は単一臓器に限局せず、全身にまたがります。筋力低下や関節可動域制限だけを確認していては、進行を捉え切れません。例えば、「以前はトイレまで歩けた患者がポータブルトイレ中心になった」「食事は摂取できるが、座位保持の疲労で摂取量が落ちた」「会話量が減って昼夜逆転が強くなった」といった生活場面の変化は、廃用進行の重要なサインです。

項目 基準・内容 備考
筋骨格系 筋力低下、筋萎縮、関節拘縮、骨量低下、疼痛 寝返り、起き上がり、立ち上がりの変化を実動作で確認する
循環・呼吸系 起立性低血圧、頻脈、運動耐容能低下、換気低下、排痰困難 離床前後の血圧、脈拍、呼吸状態、自覚症状を連続して評価する
神経・精神系 せん妄、意欲低下、不安、抑うつ傾向、睡眠障害、認知機能低下 環境変化、疼痛、薬剤、感染、脱水など可逆的因子も併せて確認する
消化・栄養系 食欲低下、便秘、低栄養、脱水、嚥下機能低下 体重、摂取量、排便状況、口腔状態、食形態と姿勢を一体でみる
生活機能 移乗、歩行、整容、更衣、排泄、入浴、家事、社会交流の低下 病棟内で可能なADLと退院後に必要なIADLを分けて把握する

評価では、原疾患の病勢、治療制限、バイタルサイン、疼痛、認知・精神状態、栄養状態、家庭環境、家族支援を統合します。とくに「できるADL」と「実際にしているADL」の乖離は重要です。能力として歩行可能であっても、転倒不安、スタッフの見守り不足、チューブ類、履物、動線、トイレ環境などが障壁となり、実生活では臥床中心になっている場合があります。
診療報酬上の廃用症候群リハビリテーション料では、急性疾患等に伴う安静によって、基本動作能力、応用動作能力、言語聴覚能力、日常生活能力の一定以上の低下を来した患者が対象とされます。治療開始時の目安として、FIM 115以下またはBarthel Index 85以下の状態等が示されています。ただし、これらは算定上の対象判断に関する目安であり、予防的な離床・活動支援の必要性を数値だけで限定する趣旨ではありません。


参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_7_1/h001-2.html
廃用症候群リハビリテーション料の通知・算定内容

予防と改善を支える具体的な介入

廃用症候群への対応は、「リハビリテーション室で訓練を行う時間」だけで完結しません。患者の24時間の生活のなかで、安静時間を必要最小限にし、治療上の安全性を確保しながら、寝返り、端座位、立位、移乗、歩行、食事、整容、排泄といった生活行為を再構築することが中心です。離床を目的化せず、患者本人にとって意味のある活動と結び付けることで、意欲と継続性を高めやすくなります。

  • 安静度・荷重・循環動態・呼吸状態・疼痛の制約を毎日確認し、安全に可能な活動範囲をチームで共有する
  • ベッド上運動だけで終わらせず、端座位、車椅子移乗、トイレ動作、食堂での食事などへ段階的に進める
  • 食事時の姿勢、義歯、口腔ケア、嚥下状態、疲労を評価し、低栄養と活動低下の悪循環を断つ
  • 関節拘縮や褥瘡を防ぐため、ポジショニング、体位変換、適切なシーティング、除圧を個別に実施する
  • せん妄・抑うつ・不眠には、日中の活動、昼夜のメリハリ、補聴器・眼鏡の活用、見当識支援、疼痛や便秘への対応を組み合わせる
  • 退院後の生活を早期から想定し、住環境、介護力、福祉用具、通所・訪問サービス、服薬管理まで含めて調整する

離床時には、起立性低血圧、頻脈、不整脈、呼吸困難、低酸素血症、疼痛増悪、転倒などのリスクを評価します。しかし、リスクが存在することと、一律に活動を中止することは同義ではありません。医師の医学的判断のもとで、実施条件、中止基準、介助量、観察項目を具体化し、患者の反応に応じて負荷を調整することが安全な早期活動につながります。
例えば、肺炎治療後で安静傾向となった高齢患者では、「歩行訓練を毎日行う」だけでは不十分なことがあります。朝に更衣してベッド外で朝食を摂り、昼はトイレまで移動し、午後は病棟内を短距離歩行し、夕方には疲労を評価して休息する、といった生活リズムの再構築が、身体機能と意欲の双方に働きかけます。患者が自宅で行いたい行為を聞き取り、それを具体的な訓練・ケア目標へ翻訳する視点が有効です。

多職種連携で生活機能の悪循環を断つ

廃用症候群は、単一職種だけでは十分に予防・改善しにくい課題です。医師は原疾患の治療方針と活動制限の妥当性を判断し、看護師は日常生活場面での活動量、睡眠、排泄、疼痛、せん妄リスクを把握します。理学療法士は移動・歩行・運動耐容能、作業療法士はセルフケア・上肢機能・役割・環境、言語聴覚士は嚥下・コミュニケーション・高次脳機能を評価します。管理栄養士、薬剤師、歯科医療職、医療ソーシャルワーカー、介護支援専門員も重要な役割を担います。
連携を機能させるには、「リハビリを実施した」という記録ではなく、生活上の共通目標を共有する必要があります。例えば、「見守りで病棟トイレを使用する」「昼食を車椅子座位で30分摂取する」「自宅の玄関段差を越える」「家族が安全な介助方法を実施できる」といった目標は、各職種の介入をつなぎます。目標は患者の価値観、退院先、退院後の役割に沿って設定し、達成度を短い周期で見直します。
また、廃用の進行は医療者側の環境要因によって助長されることがあります。ナースコールを押すよう求められた患者が遠慮して排泄を控える、チューブ類への配慮不足で移動を避ける、食事がベッド上で配膳される、歩行器が手の届かない場所にある、といった小さな障壁の積み重ねです。病棟ラウンドでは、患者本人の能力だけでなく、「動けない環境になっていないか」を観察対象に含めるべきです。

診療報酬・記録で押さえる実務上の留意点

廃用症候群リハビリテーション料は、急性疾患等に伴う安静による廃用症候群で、一定程度以上の機能・ADL低下を来した患者に対して、個別療法として実施する際に算定されます。所定点数は1単位当たり、区分Iが180点、区分IIが146点、区分IIIが77点です。標準的算定日数は、原則として廃用症候群の診断または急性増悪から120日とされています。


算定のためには、原疾患に伴う安静と廃用による機能低下との関係、介入の必要性、具体的な目標、実施内容、経過を診療録で説明できる状態に整えることが重要です。通知では、基本動作能力の回復等を通じて実用的な日常生活活動の自立を図るため、運動療法、実用歩行訓練、ADL訓練、作業療法などを個々の症例に応じて組み合わせることが示されています。マッサージや温熱療法などの物理療法のみを行う場合は、同料の趣旨に沿わない点にも留意が必要です。


評価は初回だけでなく、月ごとに行い、変化を可視化します。FIMやBarthel Indexといった尺度は有用ですが、点数の変動だけでは退院後の生活を判断できません。自宅内の移動距離、トイレまでの導線、介助者の有無、家屋の段差、服薬・食事・入浴の実行可能性、認知・精神面の安定性までを記録と退院支援に反映させる必要があります。介護保険サービスへの移行が見込まれる場合は、本人の同意を前提に、リハビリテーション実施計画書等を用いて事業所や介護支援専門員との情報連携を行います。


医療従事者に求められるのは、廃用症候群を「リハビリテーション科だけの問題」にしないことです。急性期治療の開始時点から、患者が元の生活へ戻るために必要な活動を見据え、安静による利益と不活動による不利益を継続的に比較することが重要です。原疾患の治療、安全管理、栄養、排泄、睡眠、心理、環境、家族支援を一つの生活機能課題として統合するとき、廃用の悪循環を断ち切る実践が可能になります。




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