

医療現場で「ガーゼの代わり」という言葉が使われる場面には、創部へ直接当てる材料を変えたい場合、滲出液の吸収を強化したい場合、固着による疼痛や出血を減らしたい場合、あるいは被覆・固定を省力化したい場合など、複数の意図があります。しかし、ガーゼを別の材料へ一律に置き換える発想は適切ではありません。まず必要なのは、処置の目的と創傷の病態を分けて考えることです。
日本褥瘡学会は、創傷被覆材を、ガーゼなどを含む古典的な創傷被覆材と、湿潤環境の形成を目的とする近代的な創傷被覆材(ドレッシング材)に大別しています。近代的な創傷被覆材は、創の状態や滲出液量に応じた使い分けが前提です。したがって、ガーゼの代替候補は「高機能であればよい」のではなく、創面保護、湿潤環境の維持、滲出液管理、死腔への対応、疼痛軽減、周囲皮膚保護といった臨床目標に合致するかで評価します。
jspu(https://www.jspu.org/medical/glossary/)
たとえば、剥離刺激を避けたい脆弱皮膚や、肉芽を損傷したくない浅い創であれば、非固着性の接触層やシリコーン系材料が候補になります。一方、滲出液が多い創にフィルム材だけを用いれば、浸軟や漏れにつながるおそれがあります。また、感染が疑われる創を密閉性の高い材料で漫然と覆うことは、排液不良や観察遅れを招く可能性があるため注意が必要です。
「ガーゼを使わないこと」自体を目的にせず、創の評価に基づいて材料を使い分けることが、医療従事者に求められる基本姿勢です。ガーゼは今も、止血補助、二次被覆、洗浄時の補助、排液確保が必要な局面などで役割を持ちます。重要なのは、ガーゼの限界と代替材料の限界の両方を理解し、処置ごとに選択理由を説明できる状態にすることです。
日本褥瘡学会「用語集:創傷被覆材」
ガーゼの代わりに検討される材料は、フィルム材、ハイドロコロイド材、ポリウレタンフォーム材、アルギン酸塩被覆材、ハイドロファイバー系被覆材、シリコーン接触層などです。それぞれが得意とする状況は異なります。以下の表は、製品個別の添付文書、施設基準、医師・皮膚排泄ケア認定看護師等の判断に代わるものではありませんが、選択時の整理枠として活用できます。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 透明フィルム材 | 浅く、滲出液が少ない創の保護や観察に向く | 浸出液が多い創、感染疑い、浸軟しやすい皮膚では慎重に判断する |
| ハイドロコロイド材 | 浅い創で、少量から中等量の滲出液を管理しながら湿潤環境を保つ | 臭気や白色・黄色のゲル化を感染と誤認しないよう、創所見全体で評価する |
| ポリウレタンフォーム材 | 中等量から多量の滲出液がある創で吸収性を活用する | 圧迫・ずれ・漏れを観察し、必要に応じて固定方法を調整する |
| アルギン酸塩被覆材 | 滲出液が多い創、出血を伴う創、深さやポケットを伴う創で検討する | 乾燥した創では適さない場合があり、残存の有無も確認する |
| ハイドロファイバー系被覆材 | 滲出液を吸収してゲル化し、創面への密着と縦方向の吸収を図る | 創の形状、深さ、交換時の残存、二次被覆材との組合せを確認する |
| シリコーン接触層 | 創面への固着や剥離時疼痛を抑え、上層の吸収材と組み合わせる | 単独では十分な吸収量を確保できないことがある |
フィルム材やハイドロコロイド材は、浅く滲出液が少ない創で湿潤環境を維持しやすい一方、滲出液の量や感染徴候を見誤ると、浸軟、漏れ、観察遅れにつながります。ポリウレタンフォーム材は吸収性を期待できるため、滲出液が中等量から多量の創で選択肢になりますが、創面の乾燥、圧迫、ずれ、周囲皮膚への負荷を同時に確認する必要があります。
深さやポケットがあり、滲出液が多い創では、アルギン酸塩やハイドロファイバー系材料が検討対象になります。ただし、創内への充填は「隙間なく強く詰める」ことではありません。過剰な充填は組織への圧迫や排液障害につながり得ます。創の形状に沿わせ、次回交換時に残存がないか確認できる方法を選ぶことが大切です。
創傷被覆・保護材は、創の保護、湿潤環境の維持、治癒促進、疼痛軽減を目的とする医療材料として承認基準が定められています。ただし、その目的は個々の創に対する無条件の適用を意味しません。患者の全身状態、栄養、循環、活動性、失禁、除圧状況、基礎疾患を含めて評価してください。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2861&dataType=1&pageNo=1)
ガーゼの代わりに密閉性や保湿性の高い被覆材を選ぶ前に、感染、虚血、壊死、深部組織損傷、骨・腱・筋膜の露出、瘻孔、ポケット、異物、悪性腫瘍性病変の可能性を確認します。創傷被覆材は創治癒を支える手段ですが、原因治療や感染制御、デブリードマン、血流評価、除圧、栄養介入を代替するものではありません。
局所感染を疑う所見としては、発赤の拡大、熱感、腫脹、疼痛増強、膿性滲出液、悪臭、出血しやすい肉芽、治癒停滞などがあります。ただし、高齢者、免疫抑制状態、糖尿病、末梢循環障害がある患者では、典型的な炎症所見が明瞭でない場合があります。発熱、頻脈、意識変容、食欲低下、血糖上昇などの全身変化も合わせて評価します。
特に、発赤が拡大する、疼痛が急に増す、悪臭を伴う膿性排液がある、皮膚色が紫色・黒色へ変化する、全身状態が悪化する、といった変化がある場合は、材料変更だけで経過を見る対応は適切ではありません。速やかに医師へ報告し、創培養、画像検査、抗菌薬、切開排膿、デブリードマン、血流評価などの必要性を検討します。
創傷一般ガイドラインでも、ドレッシング材は湿潤環境形成を目的とした近代的創傷被覆材として位置づけられています。湿潤環境の形成は重要ですが、創感染や創傷治癒を阻害する因子への対応を省略してよい根拠にはなりません。
dermatol.or(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/sousyou2023.pdf)
日本皮膚科学会「創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)創傷一般」
ガーゼから別の被覆材へ変更した場合、材料の性能だけを見て「交換回数が減った」「漏れなかった」と評価するのは不十分です。創面、滲出液、周囲皮膚、疼痛、固定状態、患者の全身状態を経時的に比較し、治癒を妨げる変化を早期に捉える必要があります。交換間隔は一律ではなく、製品の添付文書、滲出液量、創の汚染状況、感染リスク、固定性、患者の生活状況をもとに決定します。
観察では、創の長径・短径・深さ、ポケットの方向と深さ、創床の組織、壊死組織の有無、肉芽の性状、上皮化の進行、滲出液の量・色・粘稠度・臭気を確認します。周囲皮膚については、発赤、白色浸軟、びらん、剥離、掻痒感、接着剤関連皮膚損傷の有無を記録します。シリコーン系粘着材や皮膚保護剤の利用を含め、皮膚への負担を下げる工夫も重要です。
疼痛評価は、処置前、剥離時、洗浄時、処置後に分けて確認すると、固着や交換手技の問題を見つけやすくなります。たとえば、被覆材を剥がす時だけ強い痛みが出る場合、創面への固着、乾燥、剥離方向、粘着部位の皮膚損傷が関与している可能性があります。必要時は、剥離刺激の少ない接触層、吸収材、固定方法への変更を検討します。
記録は、「フォーム材へ変更」だけで終わらせず、「滲出液が中等量で、前回のガーゼでは交換時に創面の乾燥と固着による出血を認めたため、非固着性接触層と吸収材の組合せに変更した。周囲皮膚の浸軟は軽度、疼痛は処置時NRS 5から2へ低下」といった形で、選択理由と結果が追える内容にします。多職種で方針を共有し、次回の評価基準を明確にすることが安全な創傷管理につながります。
ガーゼの代わりを選ぶ際は、材料の名称から入るのではなく、評価項目を一定の順番で確認すると判断の抜けを減らせます。まず、創傷の原因と治癒阻害因子を把握し、次に深さ、創床、滲出液量、感染徴候、周囲皮膚、疼痛、部位の動き、固定のしやすさを確認します。そのうえで、必要な機能を優先順位化し、一次被覆材、二次被覆材、固定材を組み合わせます。
実務上は、「創面に固着させない」「滲出液を受け止める」「周囲皮膚を浸軟させない」「観察を妨げない」「患者の生活動作に耐える」という五つの視点が有用です。たとえば仙骨部の褥瘡では、滲出液だけでなく失禁、発汗、ずれ、体位変換による剥がれを考慮します。下腿の創では、浮腫、血流、弾性療法の適否、歩行によるずれを考慮します。部位や生活条件によって、同じ創深度・同じ滲出液量でも最適な材料構成は変わります。
患者や家族へ説明する際は、「高価な被覆材だから治りやすい」という誤解を避けます。材料は創に合うことが重要であり、漏れ、痛み、臭い、発赤、発熱、急な悪化があれば予定日を待たず連絡するよう伝えます。在宅では、患者・家族が観察できる範囲と、医療者へ連絡すべき変化を具体的に示すことが重要です。
また、皮膚欠損用創傷被覆材の保険算定や使用範囲には条件があり、対象創や使用方法によって扱いが異なります。保険請求を前提とする場合は、最新の診療報酬、特定保険医療材料の通知、各製品の添付文書、施設内の運用基準を必ず確認してください。支払基金の審査事例でも、皮下組織に至る創傷用の被覆材について、創傷の種類に応じた算定の考え方が示されています。
ssk.or(https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/sinsa_jirei/kikin_shinsa_atukai/shinsa_atukai_i/shochi_1.files/shochi_19.pdf)
結論として、ガーゼの代わりに用いる材料の選択は、単なる物品変更ではなく、創傷評価にもとづく治療設計です。ガーゼが不向きな理由を明確にし、その不足を補う機能を持つ被覆材を選び、交換のたびに創と患者の反応を再評価することが、疼痛、浸軟、漏れ、治癒遅延を抑える実践につながります。