

「メッツェン」は、手術室や外科系診療科で用いられる「メッツェンバウム剪刀(Metzenbaum scissors)」の略称です。メッツェンバーム、メッツェンバウム、メッツェンなど、施設や術者の慣習により呼び方に差がありますが、通常は同系統の繊細な外科剪刀を指します。術中に「メッツェン」「メッツェン反」「長いメッツェン」などと指示された場合、器械出し担当者は術者の意図を、形状・長さ・左右の向きまで含めて判断する必要があります。
メッツェンバウム剪刀は、比較的柔らかい組織を切離または剥離するための器械です。一般的な外科剪刀よりも細長く、刃先が繊細であることが特徴であり、血管周囲、リンパ節周囲、脂肪組織、疎性結合組織などの細かな操作に適します。先端が細いため、狭い術野や深部で組織を確認しながら操作しやすく、周囲の構造物への不要な牽引や圧挫を抑える目的でも使われます。メッツェンバウム剪刀は、血管・リンパ節などの比較的柔らかい組織の切離や剥離に使用される剪刀とされています。
参考)メイヨー剪刀|剪刀(2)
ただし、「メッツェン=何でも切れるはさみ」ではありません。刃が細く精密であることは利点である一方、硬い対象物を切ると刃先の変形、刃こぼれ、切れ味の低下につながります。器械を長く安全に使用するには、器械の構造と本来の適応を理解したうえで、切離用、剥離用、糸切り用を意識して使い分けることが重要です。
PMDA:メッツェンバウム剪刀の添付文書
メッツェンの中心的な役割は、軟部組織の精密な切離と鈍的剥離です。剪刀を閉じた状態で組織間に先端を進め、必要に応じてゆっくりと開く操作は、組織の層を確認しながら剥離する際に行われます。一方、切離では、切断線を明確に確認してから、必要最小限の範囲で刃を閉じます。見えない場所に刃先を深く入れたり、組織を十分に確認せずに開閉したりすると、血管、神経、管腔臓器などの偶発損傷につながるおそれがあります。
手術の種類によって使用場面は異なりますが、腹部手術、婦人科手術、泌尿器科手術、心血管外科手術、形成外科手術などでは、繊細な組織を扱う局面が多くあります。とくに、血管周囲の操作やリンパ節郭清では、視野の確保とともに、周囲組織への不要なダメージをできる限り抑えることが求められます。メッツェンバウム剪刀は、形成外科や腹部手術など精度が重視される場面で用いられ、泌尿器科、婦人科、心血管外科の手術でも選択されることがあるとされています。
参考)https://wpiinc.com/ja/blogs/all/difference-between-metzenbaum-and-mayo-scissors
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 脂肪組織、疎性結合組織、血管周囲、リンパ節周囲などの軟部組織 | 術野を直視し、対象組織を確認して操作する |
| 主な用途 | 繊細な切離、鈍的剥離、細部の組織操作 | 閉じた刃先を進めて開く剥離操作では力をかけすぎない |
| 直型 | 表層や直線的に届く術野で扱いやすい | 術者の手の位置や切離方向を確認して準備する |
| 反型 | 深部や湾曲した術野、視野を避けて操作したい場面で選ばれる | 反りの向きと左右の取り違えに注意する |
| 避ける対象 | 太い縫合糸、ワイヤー、テープ、硬い組織、金属製品 | 刃こぼれや切れ味低下の原因となる |
なお、動物用医療機器に関するデータベースでも、メッツェンバウム剪刀は臓器、組織、血管を切開・切除・剥離するために用いる器械として示されています。ヒト医療と動物医療では個別の製品仕様や運用が異なるため、実際には勤務施設の器械セット、製品の添付文書、感染管理手順を優先して扱ってください。
メッツェンを適切に扱うには、ほかの剪刀との役割の違いを理解することが欠かせません。とくに混同されやすいのがメイヨー剪刀です。メイヨー剪刀は、一般に刃が厚く丈夫で、比較的硬い組織や筋膜、縫合糸などの切断に使われます。これに対してメッツェンは、細く長いシャンクと繊細な刃先を活かし、軟部組織の切離・剥離に重点を置いた器械です。
クーパー剪刀も手術室で頻用される剪刀ですが、施設や術式により用途の運用は異なります。結紮糸を切るための剪刀としてクーパーを選択する施設もあり、メッツェンの刃先を保護する観点からも理にかないます。重要なのは名称だけで一律に判断せず、術者がどの組織をどの操作で扱う予定か、セット内でどの器械を何用として扱うかをチームで共有することです。
メイヨー剪刀は皮膚など比較的硬い組織の切離に用いられやすく、メッツェンバウム剪刀は柔らかく繊細な組織の剥離・切離に用いられるという整理が実践的です。
「メッツェンをください」という依頼だけでは、十分な情報にならない場合があります。製品には直型と反型があり、さらに全長や刃長にも複数の選択肢があります。浅い術野で直線的な切離を行う場面では直型が扱いやすいことがありますが、深部やカーブした術野では反型が選ばれることがあります。反型は先端が術野の奥へ届きやすく、手元や周囲組織が視野に入りにくい状況でも、角度を工夫して操作できる利点があります。
一方で、反型の使いやすさは、術者の立ち位置、切離したい方向、助手による牽引方向、ポートや開創器の位置に左右されます。器械出し看護師は、術前のカンファレンス、執刀医の好み、過去の症例セットを参考にしつつ、直・反の両方を使用できる状態に整えると円滑です。特にロボット支援下手術や腹腔鏡下手術では、使用する鉗子類と開腹用剪刀を明確に区別し、器械台上の配置をわかりやすくすることも安全対策になります。
メッツェンの識別では、先端の細さ、刃の繊細さ、シャンクの長さ、反りの有無を確認します。名称が似た器械、たとえばクーパー剪刀、形成剪刀、眼科剪刀などと混在すると、迅速な受け渡し時の取り違えが起こりやすくなります。視認性の高い配置、カウント時の形状確認、洗浄後の器械点検を徹底し、曖昧な指示は復唱して確認する姿勢が求められます。
メッツェンの安全な使用は、術中操作だけで完結しません。使用後の回収、洗浄、点検、滅菌、保管までの各工程で刃先を保護しなければ、次回使用時の性能と安全性に影響します。使用済み器械を重ねて放置したり、ほかの重量物の下に置いたりすると、細い先端や刃が曲がるおそれがあります。器械は血液や組織片が乾燥する前に、施設の規程に従って速やかに前処理へ回し、関節部や刃部の汚れを適切に除去することが大切です。
点検時には、刃先の欠け、曲がり、噛み合わせのずれ、開閉の引っかかり、支点部のがたつき、腐食、残存汚染を確認します。剪刀は切れ味が悪化すると、組織を「切る」のではなく「つぶす」ような作用になりやすく、不要な組織損傷や操作時間の延長につながります。刃先の損傷や切断不良を認めた器械は、自己判断で使用を継続せず、施設の手順に沿って使用中止、修理依頼、更新判定を行うことが必要です。
滅菌方法は、材質、製造販売業者の添付文書、施設の滅菌部門の手順に従います。一般論として外科用金属器械には高圧蒸気滅菌が用いられることがありますが、温度・乾燥・包装・積載条件などの管理が不可欠です。メッツェンを含む剪刀は、ラチェットや関節がない構造でも、刃部の保護と完全な洗浄・乾燥を重視し、滅菌後には熱傷にも注意して取り扱います。剪刀類について高圧蒸気滅菌が有効とされる一方、滅菌完了直後の高温への注意も示されています。
医療従事者がメッツェンを扱う際の本質は、「細かく切れる器械」であることではなく、「繊細な組織を、必要最小限の侵襲で操作するための器械」であることを理解する点にあります。術者、助手、器械出し看護師、洗浄・滅菌担当者がそれぞれの工程で適応と限界を共有することが、器械の性能維持と周術期安全の両方につながります。