
瘢痕拘縮形成術は、熱傷、外傷、手術創、感染後の瘢痕などが収縮して皮膚・皮下組織を牽引し、関節運動や開口、頸部伸展、眼瞼閉鎖などを妨げる状態に対して、拘縮を解除し機能を再建する形成外科手術である。単に瘢痕の色調や幅を整える「瘢痕形成術」とは異なり、主目的は運動制限や変形といった機能的な問題の改善にある。
瘢痕拘縮は、関節部、頸部、手指・足趾、腋窩、肘窩、膝窩、口唇周囲、眼瞼周囲など、反復する伸展や屈曲によって皮膚に張力が加わる部位で問題化しやすい。瘢痕が関節を横断し、可動方向と直交する形で存在すると、成長期の小児や日常生活動作の多い成人では徐々に運動障害が顕在化することがある。
日本形成外科学会は、瘢痕拘縮を関節部や首などにできた瘢痕が引きつれを起こし、動きを障害する状態として説明している。拘縮の走行を変えたり、ジグザグ状に縫合したりするZ形成術は、代表的な拘縮解除の手技である。日本形成外科学会「瘢痕拘縮」
参考)瘢痕拘縮|日本形成外科学会
診療報酬上の「K010 瘢痕拘縮形成手術」は、単なる拘縮だけではなく、運動制限を伴う症例に限って算定する扱いとされる。また、指に対する手術はK099「手指及び足趾瘢痕拘縮手術」で扱うため、術式名、部位、機能障害の内容を診療録と手術記録に明確に残すことが重要である。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_10_1_1_2/k010.html
術前評価では、瘢痕を「見た目の問題」として捉えるのではなく、瘢痕がどの方向に短縮し、どの組織層まで影響しているかを把握する。特に、他動可動域と自動可動域の差、関節の屈曲・伸展位での皮膚緊張、瘢痕索の位置、周囲皮膚の可動性、感覚障害、末梢循環、腱・関節包・筋膜など深部組織の関与を評価する。
熱傷後では、瘢痕が未成熟で赤み、硬さ、掻痒、疼痛を伴う時期に拘縮が進行する場合がある。一方で、機能障害が明確であれば、瘢痕成熟を待つことが常に優先されるわけではない。頸部拘縮による視野障害や気道確保上の問題、眼瞼外反による角膜障害、口唇拘縮による摂食・構音障害、手指拘縮による把持障害などでは、早期の手術介入が必要となることがある。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 機能障害 | 関節可動域制限、歩行・把持障害、開口障害、頸部伸展障害、眼瞼閉鎖不全など | 日常生活動作への影響を具体的に記録する |
| 瘢痕の走行 | 関節を横断する線状瘢痕、索状瘢痕、面状の広範囲瘢痕 | 拘縮方向と可動域制限の方向を対比する |
| 周囲皮膚の性状 | 伸展性、厚み、血行、瘢痕化の程度、皮弁挙上の可否 | 局所皮弁が可能か、植皮が必要かを検討する |
| 深部組織の関与 | 腱短縮、関節包拘縮、骨変形、神経障害、血流障害 | 皮膚解除のみでは改善しない症例を見逃さない |
| 患者要因 | 年齢、成長、糖尿病、喫煙、栄養状態、セルフケア能力 | 創治癒遅延や再拘縮リスクを総合的に評価する |
可動域は、可能であれば角度計を用いて術前・術後に定量化する。写真記録では、安静時だけでなく最大伸展位、最大屈曲位、開口時など、機能障害がもっとも現れる肢位を含める。患者の訴えを「つっぱる」「曲げられない」とだけ記載せず、どの動作が、どの程度、どの疼痛または皮膚緊張で妨げられるかを言語化することが望ましい。
瘢痕拘縮形成術の基本は、拘縮の原因となっている瘢痕索または瘢痕板を十分に切開・切除して、まず必要な長さと可動域を得ることである。その後に生じる皮膚欠損を、周囲皮膚の再配置、局所皮弁、植皮、遊離皮弁などで再建する。術式は「どの手技が標準か」だけで決めるのではなく、拘縮の範囲、方向、深さ、周囲組織の余裕、再拘縮リスクに応じて個別に決定する。
Z形成術は、中央脚に対して両端から側脚を置き、作成した2つの三角皮弁を相互に入れ替える局所皮弁術である。瘢痕の方向を変え、拘縮線を分断し、皮膚長を得ることを目的とする。小範囲から中等度の線状拘縮で、周囲に伸展性を有する正常皮膚または比較的良好な皮膚が残存している場合に適している。長い拘縮には連続Z形成術やmultiple Z-plastyを用いることがあり、緊張を分散して直線性を減らすことができる。
局所皮弁を選ぶ際は、瘢痕化した皮膚だけで皮弁を構成すると血行不良や再拘縮のリスクが高まる。皮弁基部の血流、瘢痕の厚み、皮下剥離層、皮弁の回転・進展時の緊張を十分に検討し、必要に応じて術中に拘縮解除後の関節可動域を再評価する。特に腋窩、肘窩、膝窩、手指間、頸部では、縫合線を再び関節可動方向に直交させないデザインが重要となる。
手術の成功は、皮膚を延長または置換できたことだけでは判定できない。拘縮解除後の創部は、炎症、浮腫、瘢痕増殖、疼痛、安静による廃用、装具不遵守などを契機に再び短縮し得る。そのため、術後管理は手術計画の一部として術前から設計し、患者・家族・看護師・理学療法士・作業療法士との共有を行う必要がある。
術後早期は、再建法に応じて皮弁の色調、温度、毛細血管再充満、うっ血、血腫、感染徴候、植皮の生着を観察する。局所皮弁やZ形成術では、過度な緊張や皮弁先端の循環不全に注意する。植皮では、ずれ、血腫、漿液腫、感染が生着不良につながるため、タイオーバー固定や陰圧閉鎖療法の適応を含め、確実な固定を行う。
可動域訓練の開始時期は、再建法、縫合部緊張、植皮・皮弁の状態、関節部位によって調整する。早すぎる過大な運動は創離開や皮弁障害につながり得る一方、過度の固定継続は関節拘縮と瘢痕短縮を助長する。担当セラピストと連携し、安静位、保護肢位、装具の装着時間、運動強度、セルフエクササイズの頻度を個別に設定する。
瘢痕成熟期には、保湿、紫外線対策、圧迫療法、シリコーンゲルシートまたはシリコーンジェル、マッサージ、装具療法などが検討される。ただし、これらの方法は患者の皮膚状態、発汗、接触皮膚炎、装着可能時間、職業・生活背景に合わせなければ継続されにくい。再拘縮予防では、処方した管理法を提示するだけでなく、患者が実際に実施できるかを外来ごとに確認することが重要である。
瘢痕拘縮形成術の合併症としては、創部感染、血腫、漿液腫、皮弁壊死、植皮不全、創離開、肥厚性瘢痕、疼痛、感覚異常、拘縮残存、再拘縮などがある。拘縮解除が不十分であれば、術後に一定の可動域改善が得られても、患者にとって必要な動作が回復しないことがある。一方、過度に瘢痕を切除して閉創時の緊張を高めると、創離開、瘢痕増悪、再拘縮を招くため、解除の程度と再建方法は一体として判断する。
診療報酬に関しては、K010「瘢痕拘縮形成手術」は、単なる拘縮にとどまらず運動制限を伴うものに対して算定する扱いである。顔面とその他で点数区分が示され、指に対してはK099の対象となる。したがって、診療録には拘縮の原因、部位、運動制限の客観所見、日常生活への影響、選択した再建法、術中に得られた可動域、術後のリハビリテーション計画を記載しておく必要がある。
実務上は、「瘢痕がある」ことではなく、「瘢痕がどのように機能を妨げ、どの手技で拘縮を解除し、どの程度の改善を目標とするのか」を一貫して記録する。例えば肘窩の熱傷後瘢痕拘縮であれば、術前伸展制限角度、皮膚性拘縮か深部拘縮か、Z形成術または局所皮弁を選んだ根拠、術後の装具・可動域訓練計画を記載することで、診療の連続性と評価可能性が高まる。
瘢痕拘縮形成術は、瘢痕を切除して縫合するだけの処置ではない。機能評価、拘縮解除、適切な組織移植・再配置、術後の瘢痕管理とリハビリテーションを連続した治療として実施することが、長期的な可動域維持と再拘縮予防につながる。
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