防風通聖散を授乳中に扱う際の実践ガイド

防風通聖散を授乳中に扱う際の実践ガイド

防風通聖散は肥満症や便秘などに用いられる漢方製剤ですが、授乳中は含有生薬であるダイオウ由来成分の母乳移行と乳児の下痢が問題となります。医療用・一般用の注意表示の違い、服用前の評価、母児の観察点をどう整理すべきでしょうか?

防風通聖散授乳中の基礎知識と核心ガイド

授乳期の防風通聖散判断
ダイオウ由来の乳児リスク

医療用添付文書では、ダイオウ中のアントラキノン誘導体が母乳へ移行し、乳児に下痢を起こす可能性が示されています。

医療用と一般用で対応が異なる

医療用は治療利益と母乳栄養の利益を踏まえた個別判断であり、一般用では服用回避または授乳回避が案内されています。

自己判断の継続服用を防ぐ

体重減少や便秘改善を目的とする服用では、母児の状態、適応の妥当性、代替手段を医師・薬剤師と確認することが重要です。

防風通聖散とは何か、授乳中に問題となる理由


防風通聖散は、漢方医学的には腹部に皮下脂肪が多く、便秘傾向があるなど、いわゆる実証に用いられる処方です。医療用の防風通聖散エキス製剤は、肥満症、高血圧の随伴症状、便秘、むくみなどを適応として処方されることがあります。一方で、市販薬では「おなかの脂肪」「肥満症」「便秘」といった訴求で認知されており、産後の体型変化や便秘をきっかけに、授乳中の人が自己判断で購入・服用を検討する場面も少なくありません。
しかし、防風通聖散は「漢方薬だから授乳中でも安全」と一律には扱えません。構成生薬にはダイオウ、カンゾウ、マオウ、セッコウ、ボウフウ、ケイガイ、レンギョウなどが含まれ、複数成分による薬理作用と副作用を考慮する必要があります。授乳中に最も重要となるのは、ダイオウに含まれるアントラキノン誘導体です。添付文書では、この成分が母乳中に移行し、乳児の下痢を起こすことがあるとされています。


参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/04987513730623
乳児、特に新生児期や月齢の低い乳児では、下痢が哺乳量低下、脱水、体重増加不良につながるおそれがあります。便がゆるい、回数が増えたという所見だけで直ちに薬剤性と断定はできませんが、母親の防風通聖散服用開始・増量と乳児の消化器症状の時間的関係を確認することが大切です。母乳栄養の継続を希望する人に対しては、服用の必要性を再評価し、漫然投与や「産後ダイエット」目的の自己使用を避ける説明が求められます。
なお、防風通聖散は便秘を伴う肥満症などへの使用が想定される製剤であり、単純な体重減少を目的に長期間使う薬ではありません。授乳期は睡眠不足、食生活の乱れ、活動量低下、産後のホルモン変動などが体重や排便に影響します。薬剤による対処を先行させるのではなく、症状の背景と母児への影響を評価したうえで、治療適応の有無を判断する姿勢が重要です。

医療用と一般用の注意表示を区別する

授乳中の防風通聖散を説明する際は、医療機関で処方される医療用医薬品と、薬局・ドラッグストアなどで入手する一般用医薬品を同一に扱わないことが重要です。製品によって生薬量、エキス量、剤形、効能・効果、使用上の注意が異なるため、患者が「防風通聖散を飲んでいる」と述べた場合には、商品名、処方元、服用量、服用開始日、併用薬を具体的に確認します。
医療用のツムラ防風通聖散エキス顆粒の添付文書では、授乳婦に対して「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と記載されています。これは授乳婦への使用を一律に禁じる表現ではありませんが、母体治療の必要性と母乳栄養の価値を個別に比較衡量するよう求める注意です。ダイオウ由来成分の母乳移行による乳児下痢の可能性も明記されています。


これに対し、一般用の防風通聖散製剤では、「授乳中の人は本剤を服用しないか、服用する場合は授乳を避ける」と案内されるものがあります。市販薬は診察・処方・定期的な検査を伴わず使用されやすく、乳児への影響を含むリスク評価が不十分になり得ることから、より慎重な表現になっていると理解できます。


参考)一般用医薬品 : ツムラ漢方防風通聖散エキス顆粒

項目 基準・内容 備考
医療用防風通聖散 治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮し、授乳継続または中止を検討する ダイオウ由来成分による乳児下痢の可能性が記載されている
一般用防風通聖散 授乳中は服用しない、または服用する場合は授乳を避けるよう案内される製品がある 必ず当該製品の添付文書・外箱・説明文書を確認する
患者への確認事項 製品名、服用量、開始時期、目的、併用薬、乳児の月齢と症状を聴取する 「漢方」「市販薬」という情報だけで判断しない
乳児の観察 下痢、便回数・性状の変化、哺乳量低下、活気低下、尿量低下などを確認する 症状があれば母親の服用継続を含め速やかに再評価する

PMDA:防風通聖散 添付文書情報

服用可否を判断するための母児評価

授乳中に防風通聖散の使用を検討する場合、最初に確認すべきなのは「なぜ今、防風通聖散が必要なのか」です。産後の体重増加、軽い便秘、むくみ感のみを理由に、市販薬を自己判断で継続することは適切とはいえません。授乳期の食事制限や急激な減量は、母体の栄養状態、疲労、母乳分泌にも影響し得るため、体重管理の目的・速度・方法を見直す必要があります。
医療用として処方する、または処方継続を検討する場合には、診断名、症状の重症度、代替治療の可否、服用予定期間、母乳栄養への希望を整理します。たとえば便秘が主訴であれば、便秘の原因、食事・水分・活動量、鉄剤などの併用薬、排便習慣、産後の排便時痛や痔疾患の有無を確認し、授乳中でも用いやすい別の選択肢がないかを含めて検討します。
乳児側では、月齢、早産・低出生体重児かどうか、基礎疾患の有無、普段の便性状、哺乳量、体重増加の経過を把握します。乳児が低月齢であるほど、あるいは脱水や栄養状態の悪化に脆弱な背景があるほど、母乳経由の下痢リスクを軽視すべきではありません。服用が不可避と判断された場合も、開始後の母児の観察計画を明確にし、自己判断での増量・再開・長期継続を防ぐことが重要です。

  • 服用の目的が医学的な適応に基づくか、体重減少や美容目的の自己使用ではないかを確認する
  • 医療用か一般用かを区別し、製品名、成分、服用量、開始日、購入経路を確認する
  • 乳児の月齢、早産歴、体重増加、下痢や哺乳量低下などの有無を確認する
  • 授乳継続の希望と、母体治療を優先する必要性を共有意思決定で整理する
  • 服用を開始・継続する場合は、乳児症状と母体副作用の連絡基準を事前に説明する

また、患者説明では「授乳中に絶対飲めない」と断定するのではなく、医療用では個別評価が必要であり、一般用では服用回避または授乳回避が案内されることを分けて伝えると誤解を減らせます。すでに服用してしまった場合も、過度に不安をあおるのではなく、製品・服用量・服用時刻・乳児の状態を確認し、下痢や哺乳不良などがあれば小児科や処方元へ相談するよう案内します。

母体に起こり得る副作用と併用薬の注意

授乳中の評価では乳児への影響に意識が向きやすい一方、母体における防風通聖散の副作用も重要です。医療用添付文書では、間質性肺炎、偽アルドステロン症、ミオパチー、肝機能障害、黄疸、腸間膜静脈硬化症などが重大な副作用として注意喚起されています。咳嗽、呼吸困難、発熱といった症状は間質性肺炎の可能性を考慮し、服用中止と速やかな受診につなげます。


特に注意が必要なのは、カンゾウに関連する偽アルドステロン症です。低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加、筋力低下などがみられることがあり、低カリウム血症を背景にミオパチー、脱力感、四肢けいれん、四肢麻痺へ進展する可能性もあります。産後のむくみや疲労、体重変化を「育児中だから」と見過ごすのではなく、薬剤性の可能性も含めて評価します。


参考)ツムラ防風通聖散エキス顆粒(医療用) - 添付文書
ダイオウによる下痢、腹痛、軟便なども臨床上の注意点です。母親の下痢が続けば、育児中の脱水、体力低下、食事摂取低下につながり得ます。さらに、長期投与においては腸間膜静脈硬化症の報告があり、繰り返す腹痛、下痢、便秘、腹部膨満、便潜血陽性などが警告症状として示されています。慢性的な便通調整目的で漫然と継続することは避けるべきです。


参考)ツムラ防風通聖散エキス顆粒(医療用)の基本情報(薬効分類・副…
併用薬の確認も不可欠です。カンゾウ含有製剤、グリチルリチン酸を含む製剤、利尿薬、副腎皮質ホルモン薬などとの併用では、低カリウム血症や偽アルドステロン症のリスクを高める可能性があります。さらに、便秘目的で他の下剤・瀉下薬を重ねると、下痢、腹痛、脱水、電解質異常を招きやすくなります。一般用製剤の使用者では、サプリメント、健康食品、他の漢方薬を「薬ではない」と認識して申告しないこともあるため、具体的な商品名で聴取することが望まれます。

医療従事者が行う説明、記録、フォローの要点

防風通聖散と授乳に関する相談では、「服用できるか」という二択に終始せず、母体の治療必要性、乳児の脆弱性、母乳栄養への希望、代替手段、観察体制を一体で評価することが実践的です。処方医、薬剤師、助産師、看護師、小児科医が関わる場合には、母体側と乳児側の情報を切り離さずに共有することが望まれます。
説明時には、医療用製剤の添付文書上、ダイオウ中のアントラキノン誘導体が母乳中へ移行し、乳児に下痢を起こすことがある点を具体的に伝えます。そのうえで、乳児の便が明らかに水様化した、回数が増えた、哺乳量が減った、機嫌や活気が悪い、尿が少ないといった変化があれば、母親が防風通聖散を自己判断で継続せず、処方元または小児科へ連絡するよう説明します。
医療用を処方する場合は、適応、処方理由、母乳栄養の状況、代替治療の検討内容、患者へ説明したリスク、連絡すべき症状を診療録に記載します。市販薬の相談であっても、製品名と服用状況、授乳状況、説明内容を残すことで、後日の評価がしやすくなります。服薬情報提供書や退院時サマリーなどで、授乳中に注意を要する漢方薬の情報を明示することも、地域連携や薬局との情報共有に役立ちます。
防風通聖散を服用中の授乳婦が来局・受診した際は、体重減少への焦りや産後の便秘、育児疲れといった背景にも目を向ける必要があります。授乳期の体重・便通の課題には、食事内容、水分摂取、睡眠、活動量、産後うつや甲状腺機能異常など、多角的に検討すべき要因があります。防風通聖散を「授乳中でも使える痩せ薬」として扱わず、母児の安全を優先して個別に判断することが、適正使用の基本となります。
くすりのしおり:ツムラ防風通聖散エキス顆粒(医療用)




【第2類医薬品】新・ロート防風通聖散錠T 112錠