トルリシティ副作用の頻度と初期対応を解説

トルリシティ(デュラグルチド)の副作用について、頻度の高い消化器症状から低血糖、急性膵炎、イレウス、胆道系疾患、肝機能障害までを整理します。医療従事者はどの症状をどう評価し、患者へ何を伝えるべきでしょうか?

トルリシティ副作用の基礎知識と核心ガイド

副作用を見逃さない実践ポイント
消化器症状を初期から確認する

便秘、悪心、下痢は比較的多い副作用であり、脱水や摂食低下、投与継続困難につながる重症化徴候を確認します。

併用時の低血糖リスクを評価する

単剤での低血糖リスクだけで判断せず、インスリン製剤やスルホニルウレア薬などの併用状況と食事量を確認します。

緊急受診を要する症状を明確化する

持続する激しい腹痛、嘔吐、呼吸困難、黄疸、排便停止などは、休薬と速やかな診察が必要となる警告症状です。


トルリシティの位置付けと副作用評価の前提



トルリシティ皮下注は、有効成分デュラグルチド(遺伝子組換え)を含有する週1回投与のGLP-1受容体作動薬です。本邦では2型糖尿病に用いられ、血糖が高い状況でインスリン分泌を促進する作用を有します。トルリシティ皮下注0.75mgアテオスおよび1.5mgアテオスが医療用医薬品として流通しており、最新の添付文書はPMDAの医療用医薬品情報で確認できます。PMDA:トルリシティ皮下注の医療用医薬品情報


参考)PMDA 医療用医薬品情報 医療関係者向け
副作用評価では、「注射後に生じた症状」だけをトルリシティに帰属させない姿勢が必要です。糖尿病患者では、感染症、糖尿病性胃不全麻痺、胆石症、慢性便秘、腎機能低下、食事摂取量の変化、併用糖尿病薬などが症状発現や増悪に影響します。一方、GLP-1受容体作動薬の薬理作用に関連して、悪心、下痢、便秘、食欲減退、腹部症状が生じることは臨床上よく知られています。したがって、投与前の胃腸症状、排便状況、膵炎歴、腹部手術歴、胆石症歴、網膜症の状態、低血糖を起こしやすい背景を把握したうえで、投与後の変化を時系列で追うことが重要です。
特に、症状の程度、持続時間、食事・水分摂取への影響、嘔吐の有無、尿量低下、体重変化、血糖値、血糖降下薬の併用状況を確認します。「吐き気がある」だけではなく、日常生活に支障があるか、摂取不良・脱水・腹痛・発熱を伴うかを聴取することで、経過観察可能な消化器症状と、投与中止や精査を要する病態を切り分けやすくなります。


頻度の高い副作用と観察すべき症状

添付文書上、消化器系の副作用は重要な確認項目です。便秘、悪心、下痢は5%以上、食欲減退、消化不良、嘔吐、腹部不快感、腹痛、腹部膨満は1~5%未満に分類されています。患者向け情報でも、主な副作用として便秘、吐き気、下痢、上腹部痛が示されています。症状が軽度で一過性であっても、継続投与への不安や自己判断による中断につながるため、投与開始時から予想される症状と相談の目安を具体的に説明することが有用です。


参考)医療用医薬品 : トルリシティ (トルリシティ皮下注0.75…

項目 基準・内容 備考
便秘 5%以上に分類される消化器症状 高度便秘、腹部膨満、腹痛、嘔吐を伴う場合はイレウスを鑑別する
悪心・下痢 いずれも5%以上に分類される 食事・水分摂取量、嘔吐、脱水徴候、尿量低下を確認する
食欲減退・嘔吐・腹痛 1~5%未満に分類される消化器症状 持続性、疼痛部位、背部放散、発熱、黄疸の有無を聴取する
注射部位反応 紅斑、炎症、そう痒感、腫脹、発疹など 注射部位のローテーションと、全身性アレルギー症状の有無を確認する
心拍数増加 1%未満に分類される 動悸、頻脈、循環器症状の訴えがあれば背景疾患・併用薬も含めて評価する

悪心や下痢への対応では、症状の早期把握に加え、少量ずつの食事、水分摂取、脂質の多い食事や過量摂取を避ける工夫などを患者の状況に応じて案内します。ただし、頻回の水様便、繰り返す嘔吐、経口摂取不能、強い倦怠感、めまい、尿量低下があれば、単なる「よくある胃腸症状」として経過観察を続けるべきではありません。重度の下痢・嘔吐は脱水や糖尿病治療の破綻につながる可能性があり、医療機関への連絡・受診を促す判断が必要です。


見逃してはならない重大な副作用と初期対応

トルリシティでは、低血糖、急性膵炎、アナフィラキシー、血管浮腫、イレウス、胆嚢炎・胆管炎・胆汁うっ滞性黄疸、肝機能障害などに注意します。低血糖は頻度不明とされ、脱力感、高度の空腹感、冷汗、顔面蒼白、動悸、振戦、頭痛、めまい、悪心、知覚異常などが初期症状となり得ます。単剤での低血糖リスクだけでなく、インスリン製剤、スルホニルウレア薬などの併用、食事摂取不足、過度の運動、飲酒、体調不良などを含めて評価します。


  • 低血糖が疑われる場合は、意識状態と血糖値を速やかに確認し、経口摂取可能なら糖質補給を行います。意識障害や経口摂取不能では、緊急対応を要します。
  • 嘔吐を伴う持続的かつ激しい腹痛、上腹部痛、背部へ放散する痛み、発熱、食欲低下では急性膵炎を疑い、投与を中止して速やかに診察・検査へつなげます。膵炎と診断された場合、本剤を再投与しないことが示されています。
  • 排便停止、高度便秘、腹部膨満、持続する腹痛、悪心・嘔吐はイレウスの警告症状です。投与を中止し、腸閉塞を含めた緊急性の評価を行います。
  • 蕁麻疹、口唇・舌・咽頭の腫脹、喘鳴、呼吸困難、血圧低下などではアナフィラキシーまたは血管浮腫を想定し、救急対応を含む迅速な処置が必要です。
  • 右季肋部痛、発熱、黄疸、皮膚・眼球結膜の黄染、濃色尿がみられる場合は、胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸や肝機能障害を鑑別し、検査と専門的評価を検討します。

肝機能障害は、2025年の安全性情報改訂で重大な副作用に追加されました。全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、黄疸といった症状は、消化器副作用と重なって見えることがあります。そのため、症状の長期化・増悪や黄疸の併発を見逃さず、必要に応じて肝胆道系酵素、ビリルビン値、腹部画像などの評価を行う視点が求められます。


参考)くすりのしおり : 患者向け情報


投与前後に確認するリスク因子と併用薬

安全な投与には、処方開始前だけでなく、継続処方時にもリスク因子を再評価することが大切です。患者向け情報では、胃不全麻痺などの胃腸障害、膵炎歴、腹部手術歴またはイレウス歴、十分な食事を摂取していない状態、衰弱、激しい運動、大量飲酒、脳下垂体異常・副腎疾患などが注意を要する背景として示されています。これらは低血糖、消化器症状の遷延、イレウス、膵炎などの評価に直結する問診項目です。


併用薬の確認は、低血糖リスクと薬物吸収への影響の双方から行います。インスリン製剤やスルホニルウレア薬の併用では、血糖自己測定の状況、低血糖歴、食事パターン、勤務形態、運転や高所作業などの危険作業の有無を確認します。低血糖を経験した患者では、「次回も同じ対応で済む」と考えず、発現時刻、直前の食事・運動、併用薬の投与時刻、血糖推移を振り返り、治療レジメン全体を再評価します。
また、急激な血糖コントロールの変化に伴って糖尿病網膜症が出現または悪化する可能性にも注意が必要です。視力低下、見えにくさ、視野異常などがあれば、単に眼精疲労と判断せず、速やかに主治医・眼科と連携します。さらに、GLP-1受容体作動薬投与後の非動脈炎性前部虚血性視神経症について、薬剤との因果関係は明らかではないものの、発現リスク増加の可能性を示唆する観察研究等が報告された旨が、2026年9月にその他の注意へ追記されたとされています。急な視力低下や視野障害は緊急性を意識して対応すべき症候です。


参考)GLP-1受容体作動薬に「非動脈炎性前部虚血性視神経症の発現…


患者指導と継続モニタリングの実務

副作用を早期に把握するには、「体調が悪ければ相談してください」という抽象的な案内だけでは不十分です。患者が自ら判断できるよう、様子を見てよい範囲と、当日中の連絡・受診が必要な症状を分けて伝えます。例えば、軽度の一過性の悪心で食事・水分が保てている場合と、嘔吐を伴う持続性腹痛、排便停止、呼吸苦、黄疸、意識障害を伴う低血糖では、必要な行動が明確に異なります。
週1回製剤であるため、投与日と症状発現日を患者自身が記録することも有用です。症状日誌には、注射日、注射部位、食事量、悪心・嘔吐・下痢・便秘の程度、腹痛の部位と強さ、体温、血糖値、低血糖症状、併用薬の使用状況を記録します。再診時に時系列を確認できれば、薬剤関連性の評価、生活要因の抽出、継続可否や追加検査の判断がしやすくなります。
自己注射の患者には、用法・用量と注射手技に加え、注射を忘れた場合の対応も確認します。次回予定日まで72時間以上ある場合は気付いた時点で注射し、その後はあらかじめ定めた曜日に投与します。次回予定日まで72時間未満なら注射せず、次の定めた曜日に投与します。2回分を一度に注射しないことを明確に伝え、過量投与・自己判断による中止を防ぎます。


医療従事者は、患者の訴えを「GLP-1受容体作動薬で起こり得る症状」と受け止めつつ、重大な疾患の初期兆候を除外する視点を持つ必要があります。最新の電子化添付文書、PMDAの改訂情報、施設内の糖尿病診療・救急対応手順を参照し、症状の重症度と患者背景に応じた個別判断につなげることが、トルリシティの安全な継続使用に重要です。


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