てんかん診療の要点と発作分類・治療戦略

てんかんの定義、発作分類、診断時に確認すべき病歴・検査、抗発作発作薬による治療、長時間発作時の初期対応を医療従事者向けに整理します。個々の患者に適した継続診療を実践できているでしょうか?

てんかんの基礎知識と核心ガイド

てんかん診療で押さえる実践要点
発作とてんかんを区別する

単回の急性症候性発作だけでは、原則としててんかんと診断しない。誘発因子、再発リスク、脳疾患の有無を総合的に評価する。

目撃情報を診断の中心に置く

発作開始時の症状、意識・反応性、運動症状、持続時間、発作後状態を患者本人と目撃者から具体的に聴取する。

発作型に沿って治療を選ぶ

焦点起始か全般起始かを見極め、症候群、併存症、年齢、妊娠可能性、相互作用を踏まえて抗発作発作薬を選択する。


てんかんの定義と単回発作との違い


てんかんは、脳内の異常で過剰、あるいは同期した神経活動によって生じるてんかん発作を反復する素因をもつ脳の疾患です。発作は運動症状だけを意味するものではなく、意識・認知・感覚・自律神経・情動・行動の一過性変化として現れます。全身けいれんを伴う発作は認識されやすい一方、数秒間の反応停止、既視感、突然の恐怖感、口をもぐもぐ動かす自動症、一側上肢のぴくつきなどは見逃されることがあります。
国際抗てんかん連盟(ILAE)の実用的臨床定義では、24時間を超えて間隔を空けた2回以上の非誘発性発作または反射発作がある場合に、てんかんと診断できます。また、非誘発性発作が1回でも、今後10年間の再発確率が2回の非誘発性発作後と同程度、すなわち少なくとも60%と見込まれる場合、または特定のてんかん症候群と診断された場合も診断基準を満たします。したがって、単に「けいれんを起こした」ことと「てんかんがある」ことは同義ではありません。発熱、低血糖、低ナトリウム血症、急性脳卒中、アルコール離脱、薬物中毒などに伴う急性症候性発作は、原因の是正と再発リスク評価を要しますが、ただちに慢性のてんかんとして扱うとは限りません。
pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24730690/)
臨床では、発作時の安全確保と並行して、誘発因子の有無、既往歴、家族歴、頭部外傷歴、中枢神経感染症、脳卒中、腫瘍、認知機能の変化、睡眠不足、飲酒、服薬・中断歴を確認します。特に初回発作では、失神、不整脈、心因性非てんかん発作、睡眠関連疾患、一過性脳虚血発作、片頭痛前兆、薬物性不随意運動などとの鑑別が必要です。診断を急ぐあまり、発作の性状や経過を十分に確認せず抗発作発作薬を開始すると、誤診や不適切な長期投薬につながる可能性があります。
ILAE:てんかんの実用的臨床定義


発作分類と病歴聴取で確認する情報

てんかん発作の分類は、治療選択、原因検索、予後説明、救急対応の設計に直結します。ILAEの2025年更新分類では、発作は焦点起始、全般起始、起始不明、分類不能という4つの主要な起始分類を基本とします。分類においては、発作中の最初の症候だけで決めるのではなく、発作全体の時間的な連続性を踏まえて症候を記述する考え方が重視されています。意識についても、単なる「意識消失」の有無ではなく、周囲の認識であるawarenessと、指示に応じる能力であるresponsivenessの両面から評価します。
ilae(https://www.ilae.org/updated-classification-epileptic-seizures-2025)
焦点起始発作では、脳の一部から異常放電が始まります。前兆として上腹部からせり上がる感覚、既視感、幻嗅、片側のしびれ、視覚異常、言語障害などが出現することがあります。その後に意識・反応性の障害、自動症、頭部・眼球の偏倚、片側の間代性けいれんを伴い、両側強直間代発作へ進展する場合もあります。全般起始発作では、発作開始時から両側性の脳ネットワークが関与し、強直間代発作、欠神発作、ミオクロニー発作、脱力発作などがみられます。焦点起始か全般起始かが判然としない場合には、無理に断定せず起始不明として記録し、動画脳波や経過で再評価します。

項目 基準・内容 備考
発作前の状況 睡眠、発熱、飲酒、服薬中断、ストレス、月経、低血糖を確認する 誘発因子や急性症候性発作の判断に役立つ
発作の始まり 突然の反応停止、前兆、片側症状、眼球偏倚、叫声などを聴取する 起始分類と局在推定の重要な手掛かりとなる
発作中の状態 反応性、視線、姿勢、運動、自動症、呼吸、皮膚色を観察する 可能であれば家族などによる動画記録も有用である
発作後の状態 傾眠、見当識障害、頭痛、筋痛、Todd麻痺、舌咬傷を確認する 失神や心因性非てんかん発作との鑑別にも活用する
発作時間 開始から回復までを時計で確認し、推定値と区別して記録する 5分以上の持続や反復は緊急対応を要する

目撃者からの情報は、診断精度を左右します。「けいれんがあった」という要約だけでは不十分であり、最初に変化した部位、眼球の向き、左右差、声かけへの反応、転倒の状況、チアノーゼ、発作終了後の混乱と回復までの時間を時系列で聴取します。スマートフォンによる動画は、プライバシーに配慮したうえで、運動現象や反応性を把握する補助情報になり得ます。ただし、動画だけで確定診断せず、病歴、神経学的診察、脳波、画像検査と統合して解釈することが必要です。


診断検査と鑑別診断の実務

てんかんの診断は、単独の検査結果ではなく、詳細な病歴と目撃情報を基軸に行います。脳波検査はてんかん性放電の検出、発作型や症候群の推定、再発リスク評価に有用ですが、通常の短時間脳波で異常が検出されないこともあります。正常脳波はてんかんを否定する根拠にはならず、必要に応じて睡眠賦活脳波、反復脳波、長時間ビデオ脳波モニタリングなどを検討します。一方で、脳波の非特異的異常を過大評価して診断することも避けなければなりません。
脳MRIは、焦点起始発作、局在関連てんかん、神経学的異常、薬剤抵抗性が疑われる例などで、海馬硬化、皮質形成異常、腫瘍、血管奇形、陳旧性脳梗塞・脳出血後病変、外傷性病変などの構造的原因を検索するために重要です。救急受診時には、意識障害が遷延する、初回のけいれん、外傷、発熱、局在神経徴候、免疫不全、抗凝固療法中などの条件に応じ、頭部CTを含む迅速な評価を行います。血糖、電解質、腎機能、肝機能、血算、妊娠可能性、感染兆候、薬物・アルコール関連情報も病態に応じて確認します。

  • 失神では、立位や疼痛・情動を契機に前駆症状があり、短時間で回復することが多いが、失神時にも短いけいれん様運動を伴うことがある。
  • 心因性非てんかん発作では、症候のみで断定せず、必要時には発作時ビデオ脳波でてんかん発作との区別を検討する。
  • 睡眠関連疾患、特に睡眠時随伴症では、発作の発生時刻、睡眠段階、常同性、日中の症状を確認する。
  • 急性症候性発作では、代謝異常、感染、脳血管障害、外傷、薬物・離脱などの可逆的要因を探索し、原因治療を優先する。
  • 高齢発症例では、脳血管障害、神経変性疾患、腫瘍、薬剤性、認知機能低下との関連を念頭に置く。

てんかん診療では、患者が「発作かもしれない」と感じた主観的な体験を尊重しつつ、客観的な時系列情報を積み上げる姿勢が重要です。発作頻度だけでなく、発作日誌、睡眠、服薬遵守、月経周期、ストレス、飲酒、救急受診歴、外傷歴、生活上の制限を継続して確認することで、診断の再評価と治療最適化につながります。
NICE:小児・若年者・成人のてんかん診療ガイダンス


薬物治療と薬剤抵抗性てんかんへの対応

抗発作発作薬による治療では、発作型、てんかん症候群、推定病因、年齢、性別、妊娠の可能性、臓器機能、併存疾患、併用薬、認知・精神症状、生活背景を総合して薬剤を選択します。薬剤選択において重要なのは、薬剤名だけでなく、焦点起始発作と全般起始発作のどちらに適するか、特定の発作型を悪化させる可能性はないか、催奇形性や避妊薬との相互作用をどう扱うか、眠気・めまい・精神症状・皮疹・体重変化などが患者の生活に及ぼす影響をどう管理するかという視点です。
投与開始時は、原則として単剤を少量から導入し、有効性と忍容性を見ながら漸増します。発作消失のみを目的に過量投与へ進むのではなく、副作用、服薬継続性、転倒、認知機能、就労や運転への影響を定期的に評価します。服薬中断は再発や重積状態のリスクを高めるため、患者教育では「自己判断で突然中止しない」ことを明確に伝えます。処方変更時には、切替えか追加か、漸減・漸増の具体的計画、発作日誌の記録方法、緊急受診の目安を共有します。
適切に選択・忍容された2種類の抗発作発作薬治療を、単剤または併用療法として実施しても持続的な発作消失が得られない場合、薬剤抵抗性てんかんを考慮します。その際は、単に薬剤を次々と追加するのではなく、診断の再検討、発作分類の再評価、服薬アドヒアランス、睡眠障害・精神疾患などの併存症、発作誘因、外科治療適応、神経刺激療法、食事療法の可能性を含め、てんかん専門施設への紹介を検討します。専門施設では長時間ビデオ脳波、てんかんプロトコルMRI、神経心理検査、必要に応じた侵襲的脳波評価などを組み合わせ、外科治療を含む個別治療の適応を評価します。
nice.org(https://www.nice.org.uk/guidance/ng217)
妊娠可能年齢の患者に対しては、治療開始時だけでなく継続診療の各段階で、妊娠計画、避妊、葉酸補充、薬剤の胎児への影響、妊娠中の薬物動態変化、産後の睡眠不足と発作再燃を確認します。妊娠を希望した時点で自己中断すると母体・胎児双方に重大なリスクを及ぼす可能性があるため、神経内科、産婦人科、小児科などと連携しながら、発作抑制と薬剤曝露のバランスを個別に検討します。


発作時対応と生活支援・死亡リスク低減

発作を目撃した場合、最優先は二次的な外傷や窒息を防ぐことです。周囲の危険物を除き、可能であれば頭部を保護し、衣服の締め付けを緩め、発作開始時刻を確認します。口の中に物を入れる、無理に身体を押さえつける、飲水や内服を強いる行為は避けます。けいれんが止まった後は、呼吸状態を確認し、嘔吐や分泌物による誤嚥を防ぐため回復体位をとらせ、十分に覚醒するまで観察します。呼吸停止、外傷、妊娠、糖尿病、初回発作、発作後も意識が戻らない場合は、速やかな救急要請が必要です。
特に発作が5分以上持続する場合、または意識が回復しないまま発作が反復する場合は、けいれん性てんかん重積状態を疑い、緊急対応が必要です。地域・施設のプロトコルに基づき、気道・呼吸・循環を評価し、必要な救急要請、血糖測定、救急薬の適応判断、搬送先との情報共有を行います。発作が終了して見えても、遷延する意識障害や非けいれん性発作活動の可能性があるため、回復経過を慎重に観察します。5分以上の持続または連続発作を緊急対応の目安とする考え方は、国際的な診療ガイダンスでも示されています。
sign.ac(https://www.sign.ac.uk/media/1079/sign143_2018.pdf)
日常診療では、発作抑制に加えて、突然予期せぬてんかん死(SUDEP)を含むてんかん関連死亡のリスク低減を意識します。強直間代発作が持続・反復すること、夜間の発作、服薬不良、単独生活などは、個々の状況に応じてリスク評価と支援を要する要素です。発作コントロールの改善、服薬継続、睡眠の確保、過度の飲酒回避、家族・同居者への発作時対応教育、必要に応じた見守りや救急計画の共有が重要です。リスクの説明は不安をあおるためではなく、患者本人と家族が発作の予防と緊急対応を具体的に選択できるようにするために行います。
就学、就労、運転、入浴、水泳、調理、高所作業、機械操作などへの助言は、一律の禁止ではなく、発作型・頻度・予兆・治療状況・法令・作業環境を踏まえて個別に行います。医療従事者は、発作そのものだけでなく、偏見、就労上の困難、心理的負担、家族への影響、認知や精神症状にも目を向け、多職種および専門医療機関と連携しながら、患者の安全と社会参加を両立させる支援を継続することが求められます。 nice.org(https://www.nice.org.uk/guidance/ng217)




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