「新型栄養失調」は、医学的に統一された正式診断名ではなく、外見上はやせていない、あるいは肥満・過体重であるにもかかわらず、たんぱく質やエネルギー、微量栄養素の不足、筋肉量の減少を抱えている状態を説明する際に用いられる通称です。従来の低栄養は「やせている」「体重が少ない」というイメージで捉えられがちでした。しかし臨床では、体重やBMIだけでは把握できない低栄養が少なくありません。
例えば、糖尿病や心不全、慢性腎臓病、COPD、悪性腫瘍、慢性炎症性疾患を有する患者では、脂肪量が保たれていても、炎症、食欲低下、治療に伴う有害事象、嚥下障害、消化吸収障害、活動低下などを背景に骨格筋量が減少し得ます。さらに高齢者では、加齢に伴う食事量減少や咀嚼・嚥下機能の低下、独居、抑うつ、認知機能低下などが重なり、体型だけからは判断しにくい栄養障害が進行します。
この概念で重要なのは、「肥満だから栄養状態は良好」「アルブミンが低くないから低栄養ではない」と短絡しないことです。特に体液貯留を伴う心不全、腎不全、肝疾患では浮腫や腹水が体重減少を覆い隠すことがあり、体重単独の評価は過小評価につながります。体重の絶対値だけでなく、意図しない体重減少、食事摂取量の推移、筋肉量、身体機能、原疾患の炎症・代謝負荷を統合して判断する必要があります。
臨床上の新型栄養失調は、低栄養、サルコペニア、フレイル、サルコペニア肥満と重なり合う概念です。ただし、これらは同義ではありません。低栄養は栄養状態を中心に評価する病態であり、サルコペニアは筋肉量の低下に筋力または身体機能の低下を伴う状態、フレイルは加齢に伴う予備能低下による脆弱性、サルコペニア肥満は筋肉量・筋機能低下と肥満を併せ持つ状態として整理すると、臨床推論に役立ちます。
成人の低栄養評価では、世界の臨床栄養関連学会が提唱したGLIM基準(Global Leadership Initiative on Malnutrition)が実用的です。GLIM基準では、まず検証済みのスクリーニングツールで栄養リスクを抽出し、その後に低栄養の確定診断と重症度判定を行います。日本栄養治療学会は、スクリーニングにMUST、NRS-2002、MNA®-SF、MSTなどの活用を示しています。
参考)GLIM基準について
日本栄養治療学会:GLIM基準について
GLIM基準の確定診断では、表現型基準から1項目以上、病因基準から1項目以上を満たすことが必要です。表現型基準は「意図しない体重減少」「低BMI」「筋肉量減少」の3項目、病因基準は「食事摂取量減少または消化吸収能低下」「疾病負荷または炎症」の2項目です。肥満患者でBMIが高くても、筋肉量減少と摂取不足、または筋肉量減少と慢性炎症が確認されれば、低栄養として評価対象になります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| スクリーニング | MUST、NRS-2002、MNA®-SF、MSTなどで栄養リスクを抽出 | GLIM診断の前段階として実施する |
| 表現型基準 | 意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少のうち1項目以上 | 体重・BMIが保たれていても筋肉量減少を確認する |
| 病因基準 | 摂取量減少・吸収不全、または疾病負荷・炎症のうち1項目以上 | 原疾患、治療経過、食事・消化器症状を確認する |
| 低栄養の診断 | 表現型基準1項目以上と病因基準1項目以上を満たす | 両者が必要であり、単独項目のみでは確定診断としない |
| 重症度判定 | 体重減少、低BMI、筋肉量減少の程度から中等度または重度を判定 | 栄養治療の優先度・介入強度の検討に用いる |
体重減少では、過去6か月で5%超、または6か月を超える期間で10%超の意図しない減少が表現型基準の一つです。アジア人の低BMIについては、70歳未満で18.5kg/m2未満、70歳以上で20kg/m2未満が提示されています。筋肉量はBIA、DXA、CT、MRI、超音波などの妥当性が確認された方法に加え、状況によっては下腿周囲長や上腕筋囲長などの身体計測も活用できます。
参考)GLIM よくあるご質問
新型栄養失調を見逃さないためには、初診時や入院時の一度きりの評価で終わらせず、診療・看護・リハビリテーション・薬剤指導の接点ごとに経時的な変化を追うことが重要です。患者が「食べている」と回答していても、主食のみで副菜や主菜が少ない、食事を完食していても必要量に届いていない、食形態の変更後に摂取量が落ちているといった状況があります。食事量は主観的な印象ではなく、必要量に対する充足率、摂取低下が続いた期間、食べられない理由まで確認します。
アルブミンやプレアルブミンは、栄養摂取量や体たんぱく量を直接反映する単独指標ではありません。炎症、肝での産生、血管透過性、体液量などの影響を受けるため、低値のみをもって低栄養と診断することも、正常値のみをもって低栄養を否定することも不適切です。日本栄養治療学会も、アルブミンやプレアルブミンは栄養指標ではなく、炎症指標・予後指標として位置付ける考え方を示しています。
炎症の評価では、CRPは補助的な情報として利用できますが、CRP値のみで疾病負荷・炎症の有無を機械的に決めるものではありません。急性疾患、慢性炎症性疾患、感染症、治療侵襲、褥瘡などの臨床状況を踏まえた総合判断が必要です。GLIMの病因基準における炎症は、疾患の病態と経過を含めて評価する視点が求められます。
低栄養が疑われる場合、重要なのは「栄養剤を追加する」という単一の対応ではなく、なぜ食べられないのか、なぜ筋肉が減っているのかを明らかにすることです。悪性腫瘍による悪液質、急性炎症、うっ血、消化管通過障害、膵外分泌不全、口腔・嚥下障害、抑うつ、薬剤性悪心、社会的孤立など、原因に応じて介入内容は変わります。経口摂取を優先する場合でも、食事形態、食事回数、補助食品、栄養補助飲料、食環境、口腔ケア、疼痛・悪心対策を組み合わせます。
たんぱく質・エネルギーの補給は重要ですが、筋肉量・筋力の維持や回復を目指すには、可能な範囲で離床、レジスタンストレーニング、歩行訓練、日常生活動作の拡大を並行する必要があります。エネルギーとたんぱく質を補給しても、持続的な安静や活動制限が続けば筋量の回復は限定的です。一方、リハビリテーションのみを強化しても、必要な栄養基質が不足していれば異化を助長するおそれがあります。
特に著しい低栄養、長期絶食、急激な体重減少、アルコール使用障害、電解質異常などを伴う患者では、急速な栄養投与に伴うリフィーディング症候群にも注意が必要です。栄養投与開始前から、リン、カリウム、マグネシウム、血糖、体液バランスを確認し、ハイリスク症例では投与量の漸増と頻回のモニタリングを検討します。栄養介入の安全性は、摂取量だけでなく代謝変化と臓器機能を踏まえて担保されます。
実務では、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、歯科専門職などの多職種で情報を共有することが有効です。例えば、看護師が食事摂取の実態と悪心を把握し、言語聴覚士が嚥下機能を評価し、管理栄養士が食形態・栄養密度を調整し、リハビリテーション職が活動量と筋機能を評価することで、低栄養の背景と改善策が具体化します。
新型栄養失調への対応では、全例に精密な体組成測定を行うことよりも、栄養リスクを組織的に拾い上げ、必要な患者に速やかに詳細評価と介入をつなげる運用が重要です。入院時、病状悪化時、治療変更時、退院前、外来での体重変化時など、評価の契機をあらかじめ決めておくと、見逃しを減らせます。
たとえば、外来の糖尿病患者が意図せず3か月で体重を減らし、食欲低下と活動量低下を訴え、下腿周囲長や握力の低下が疑われる場合、血糖管理が改善しているように見えても、栄養状態と筋機能を評価する必要があります。肥満を背景にしていると「減量成功」と誤認されやすいため、減少の意図、速度、食事内容、筋力・歩行能力、原疾患や薬剤の影響を確認することが大切です。
GLIM基準は成人の低栄養を共通言語で整理する枠組みであり、スクリーニングなしに診断項目だけを形式的に埋めるためのものではありません。検証済みのツールで栄養リスクを把握し、表現型基準と病因基準を用いて診断し、その後に重症度と介入優先度を評価する流れを定着させることが望まれます。
「太っているから低栄養ではない」という先入観を外し、体重の推移、筋肉量、食べられない要因、炎症・疾病負荷、身体機能を一体として評価することが、新型栄養失調の早期発見につながります。患者の予後、治療継続性、ADL、生活の質に関わる問題として、多職種チームで継続的に扱うことが求められます。